フレーム構成  漢詩詞作品集杖下300律詩 秋の部 中山逍雀漢詩詞創作講座填詞詩余楹聯

杖下三百律詩 秋の部録60首

01−
   七夕
     下平八庚韻仄起

首秋天晴夕暮清,巷間復聴乞功聲。
已収梅雨雲徐去,好配銀河月又迎。
獨酌一巵遊子意,閑思三上古人情。
南軒倚柱仰星斗,織女牽牛紫氣横。

首秋 シュシュウ 秋の初め
巷間 コウカン ちまた
牽牛織女 0643 ケンギュウショクジョ 七夕の星
紫氣 0779 シキ 紫色の雲 目出たい事の前兆
乞功 0037 キツコウ 陰暦七月七日に児女が七夕の祭りをする 荊楚歳時記
0312 シ 卮の俗字 0155 杯 支離滅裂 臨機応変 えんじ色
三上 0015 サンジョウ 作文をするに最も良い場所
馬上 枕上 廁上 宋欧陽修帰田禄

首秋の天晴れ 夕暮清く、 巷間復た聴く乞功の聲。
已に梅雨は収まりて 雲徐に去り、好く銀河を配し 月又迎う。
獨酌一巵 遊子の意、閑思三上 古人の情。
南軒柱に倚り星斗を仰げば、織女牽牛 紫氣横わる。

 

 


02−
   七夕
    下平十二侵韻仄起

庭上初聞促織吟,暮風颯颯払衣襟。
東郊南野浮雲去,北渚西村残靄沈。
綵縷巧鍼良婦願,華燈香夢美人心。
漢河七夕双星會,此夜真情倚檻尋。

颯颯 1102 サツサツ 風のさっと吹くさま
東郊 トウコウ 東の郊外
南野 ナンノ 南の野
1081 アイ もや
綵縷 0783 0795 サイル 綾絹の糸
巧鍼 1039 コウシン 巧みな針使い
華燈 0848 カトウ 華やかな灯火
香夢 1111 コウム 花の下などで見る夢
促織 0079 ソクショク コオロギ 寒く成るので機織をするよう催促するように聞こえる

庭上初めて聞く促織の吟、暮風颯颯として衣襟を払う。
東郊南野 浮雲去り、北渚西村 残靄沈む。
綵縷の巧鍼 良婦の願、華燈の香夢 美人の心。
漢河の七夕 双星の會、此夜の真情 檻に倚りて尋ねん。

 

 


03−
   房総清澄参詣路逢雨
     下平十一尤韻平起

驕陽遠去赫炎収,清澄山中峽谷頭。
峯嶽雷轟輸急雨,林蹊客惑結深憂。
清渓忽濁濁流迸,列嶂復晴晴月浮。
黄昏涼風吹颯爽,早知天地入新秋。

驕陽 1112 ゴウヨウ 夏の激しい太陽
赫炎 0959 カクエン まばゆい 盛んな
清澄 キヨスミ千葉県房総半島清澄山
峽谷 0304 キョウコク 谷 谷間
峯嶽 0305 ホウガク 山々
林蹊 リンケイ 林の中の小径
列嶂 レッショウ 連なった峰
晴月 0466 セイゲツ 晴れた空の月

驕陽は遠く去り 赫炎は収る、“清澄”山中 峽谷の頭。
峯嶽に雷は轟き 急雨を輸り、林蹊の客は惑いて深憂を結ぶ。
清渓 忽ち濁りて 濁流迸しり、列嶂 復た晴れて 晴月浮ぶ。
黄昏の涼風 颯として路を吹き、早に知る 天地新秋に入るを。

 

 


04−
    蟲聲
    下平二簫韻仄起

涼意到來炎氣消,鳴蟲遶屋百聲調。
臨風喞喞自終夕,邀月啾啾度永宵。
宛似彈琴仍鼓瑟,或疑弄笛又吹簫。
高低長短太堪聴,偏使秋人感轉饒。

涼意 リョウイ 涼しき秋の気配
炎氣消 エンキキエ 炎熱の気が消え
屋遶 オクヲメグリ 家の回り中に
啾啾 0191 シュウシュウ 小声で悲しげになく声
弄笛 0335 ロウテキ 笛をもてあそぶ
吹簫 0178 スイショウ 簫の笛を吹く 乞食
喞喞 0191 ショク ショク 機を織るような小さな音の頻りなさま
☆ 自◇◇到△△ ◇◇から△△にいたる の構文有り 自薄暮到深更 時刻場所など

涼意到來し 炎氣消え、鳴蟲は屋を遶り 百聲調う。
風に臨み 喞喞 自から終夕、月を邀え 啾啾 永宵に度る。
宛かも彈琴 仍お鼓瑟に似て、或は弄笛又吹簫かと疑う。
高低長短 太だ聴くに堪え、偏えに秋人をして感 轉た饒ら使む。

 

 


05−
   新秋
     上平十灰韻仄起

檐下新蛩向晩催,井梧一葉作愁媒。
炎雲畏日驕天去,清月涼風侵地來。
立志諮功出郷里,耽詩溺酒散私財。
任他百事空乖意,只玩虫書樂土開。

檐下 0533 エンカ 軒下
0879 キョウ コオロギ 蝗 蝉の抜け殻
0674 イ 恐れる 慎む 忌む 嫌う
任他 0065 ニンタ 人に任せる 成り行き任せ
蟲書 0876 チュウショ 秦の八体書の一つ 虫の食った跡が篆書の様に見える物
☆ 虫と蟲はもと別の文字 蟲は虫がたくさん集まった蛆虫の様な虫を指す 蝮の象形

檐下の新蛩 晩に向いて催し、井梧一葉 愁媒を作す。
炎雲畏日 天に驕りて去り、清月涼風 地を侵し來る。
志を立て功を諮り 郷里を出で、詩に耽り酒に溺れ 私財を散ず。
任他 百事空しく意に乖き、只だ虫書を玩び樂土開かる。

 

 


06−
   新秋
    上平十一眞韵仄起

雨洗残炎絶粉塵,央天的鏤鏤星辰。
清秋籬落黄花未,臨月山村白夜新。
喞喞候蟲鳴露草,嗷嗷賓雁度穹旻。
庭梧一葉先知節,吹断飄風愁殺人。

央天 0245 オウテン 天の真ん中
的鏤 0690 テキラク 的歴 鮮明なさま
籬落 0760 リラク 垣根 ☆ 落は囲いの意
嗷嗷 0195 ゴウゴウ 喧しく騒ぐ声
賓雁 0955 ヒンガン 雁のこと
未 文末に付くと否定の疑問
庭梧 テイゴ 庭に有る桐 桐は初秋に葉が落ちるので、季節を表す物として用いられる
喞喞 0191 ショク ショク 機を織るような小さな音の頻りなさま

雨は残炎を洗い粉塵を絶ち、央天的鏤と星辰を鏤む。
清秋の籬落 黄花未しも、臨月の山村 白夜新なり。
喞喞たる候蟲 露草に鳴き、嗷嗷たる賓雁 穹旻を度る。
庭梧一葉 先ず節を知り、吹断 飄風 人を愁殺す。

 

 


07−
   新秋吟(題白雨)
      上平一東韵平起

閑眠不熟夢難通,坐見碧天昏暮中。
忽爾飄雲怒風伯,沛然伴雨激雷公。
方匡枯旱早涼送,尚奪炎氛残暑空。
秋氣吹來侵草屋,夙聞零露月庭蟲。

0360 コツ 忽ち 疎かに 尽きる 滅びる
風伯 1101 フウハク 風の神 鳥の名
0146 キョウ ただす 正しい 救う
0453 カン 日照り みずのないこと
0210 ソゾロ 坐る 巻き添え 何とはなしに 唐杜牧山行詩
沛然 0569 ハイゼン 雨の盛んに降るさま 孟子梁恵王上 沛然下雨
0638 ジ 然り その様に ☆ 助字 他の語の下に付いて状態を表す語を作る 卒爾

閑眠熟せ不 夢 通じ難く、坐に碧天昏暮の中を見る。
忽爾 雲を飄し風伯怒り、沛然 雨を伴い雷公激し。
方に枯旱を匡い早涼を送り、尚お炎氛を奪い残暑空し。
秋氣吹き來りて草屋を侵し、夙に聞く 零露月庭の蟲を。

 

 


08−
   新秋吟
       上平六魚韵平起

松林山下愛蓬廬,蝉語啼休暑氣虚。
草裡啾嘯蟲語夕,雲端皓彩月昇初。
風懐到底阿誰解,詩癖不知何許舒。
才退案前還獺祭,埋頭書册惜居諸。

啾嘯 0191 シュウシヨウ 小声で悲しげになく声
皓彩 0691 コウサイ 白く輝き彩られる
風懐 1100 フウカイ 風流な胸の内 雅な心
何許 0066 イズコ 何処 晋陶潜五柳先生伝
居諸 0298 キョショ 月日 詩経日居月諸
詩癖 シヘキ 詩に夢中になっている
1057 おもねる 湾曲 丘ひさし ☆ 人を親しみ呼ぶ時にその上に付ける接頭語
獺祭 0654 ダッサイ 詩文を作る時、多くの参考書を左右並べること 禮記月令

松林山下に蓬廬を愛し、蝉語 啼き休みて暑氣虚し。
草裡啾嘯たり 蟲語の夕、雲端の皓彩 月昇の初。
風懐到底 阿誰か解す、詩癖は知ら不 何許 舒を。
才は退き 案前 還た獺祭し、頭を書册に埋め居諸を惜しむ。

 

 


09−
    新秋散策
(五言俳律)   下平一先韵平起

秋風吹鬢髪,吟叟過田園。
秀草誇荒野,斜陽落暮天。
旗亭宜估醉,客榻暫婪眠。
身在粉華外,詩成勝景邊。
東山懸片月,北郭滞冥煙。
古刹昏鐘遠,個中思適然。

旗亭 0448 キテイ 料理屋 旗を立てるから
0067 コ 取引税 値 商人 売る
0260 ラン むさぼる 慎まない
粉華 0761 フンカ 華やかな場所
冥煙 0115 メイエン 奥深い煙
個中 0082 コチュウ 全体に対する一つ
適然 1006 テキゼン 偶然 当たり前
0526 トウ 腰掛け 長椅子
☆ 排律 新体詩 五言又は七言の句、八句を除く六つ以上の偶数句から成り、声調は律詩と基本的に同じ構 成で、前二句と後二句に挟まれた句は、全て対句とする。
七絶は平起が正格仄起が偏格、五絶は仄起が正格平起が偏格
☆ 五言の排律は見受けますが、七言の排律は見受けません。

 

秋風鬢髪を吹き、吟叟田園を過ぎる。
秀草荒野に誇り、斜陽暮天に落つ。
旗亭醉を估うに宜く、客榻暫く眠を婪る。
身は粉華の外に在り、詩は勝景の邊に成る。
東山は片月を懸け、北郭は冥煙を滞らす。
古刹の昏鐘は遠く、個中の思は適然たり。

 

 


10−
   新秋山居 
     下平七陽韵平起

佚遊詩客老他郷,蠹触残書毎満牀。
高壟翆松沈暮靄,疎籬黄菊傲秋霜。
戸庭新月催吟興,茅屋閑窓送晩涼。
也聴初更仍五夜,吟蟲啾喞草中長。

佚遊 0066 イツユウ 気侭に遊ぶ 遊び怠ける
蠹触 0888 トショク 衣や書を虫に食われる
高壟 0224 コウロウ 高い丘
五夜 ゴヤ 五更
初更 ☆ 漢の時代以降、一夜を五つに区分した時刻の名 
甲夜 初更 午後八時前後の二時間 一説に後の二時間
乙夜 二更 午後一〇時
丙夜 三更 午後十二時
丁夜 四更 午前二 時
戊夜 五更 午前四時

佚遊の詩客 他郷に老い、蠹触の残書 毎に牀に満つ。
高壟の翆松 暮靄に沈み、疎籬の黄菊 秋霜に傲る。
戸庭の新月 吟興を催し、茅屋の閑窓 晩涼を送る。
也聴く初更仍五夜に、吟蟲啾喞草中に長きを。

 

 


11−
   新秋山居
    上平七虞韵平起

秋風颯颯粟生膚,夜屋裁詩役老躯。
静聴草蛩吟砌畔,愛看庭菊發階隅。
浮雲影淡征鴻去,隙戸聲寒遊子孤。
坐惹郷愁眠不就,罍樽傾盡睡工夫。

颯颯 1102 サツサツ 風のさっと吹くさま
粟膚 とりはだ
裁詩 サイシ 詩をあれこれ工夫する
草蛩 ソウキョウ コオロギ
砌畔 セイハン 石畳のへり
階隅 1064 カイグウ きざはしのすみ
征鴻 0347 1145 セイコウ 空往く大きな水鳥 
隙戸 1067 ゲキコ 戸の隙間
遊子 ユウシ さすらいの身
罍樽 0799 ライソン 罍も樽もたる

秋風颯颯 粟 膚に生じ、夜屋に詩を裁して老躯を役す。
静かに草蛩の砌畔に吟ずるを聴き、愛し看る庭菊 階隅に發くを。
浮雲の影は淡くして征鴻去り、隙戸の聲は寒し遊子の孤なるに。
坐に郷愁を惹き眠り就ら不、罍樽傾け盡くして睡工夫。

 

 


12−
   新秋月下荘
   下平七陽韵仄起

簪筆雅遊兼納涼,問尋山下緑陰荘。
風揺樹竹餘炎熄,月満階庭湛露香。
留宿客邀同好客,安眠牀作合歓牀。
寔宜晩夏清澄夜,詩酒唱酬寒暑忘。

簪筆 雅遊 納涼を兼ね、問い尋ぬ山下緑陰の荘。
風は樹竹を揺がし餘炎熄え、月は階庭に満ちて湛露香し。
留宿の客は同好の客を邀え、安眠の牀は合歓の牀と作す。
寔に宜し晩夏清澄の夜、詩酒唱酬し寒暑忘るに。

湛露 0599 タンロ 繁露
留宿 0675 リュウシュク 宿に留まる
0283 ショク まことに まさしく
雅遊 ガユウ 風流な遊び
簪筆 0757 シンヒツ 毛で飾った簪 官吏が筆を簪に挿すことから言う
合歓牀 0173 ゴウカン 歓びを共にする ☆ 男女が床を共にし睦みあう
唱酬 0188 ショウシュウ 自作の詩歌を互いにやり取りする 唱はやる酬は受け取る

 

 


13−
   新秋晴夜
    下平七陽韵平起

満天燦燦又煌煌,仰望銀河鏤彼蒼。
北斗七星呈紫気,西風萬里送清商。
托身胡搨對金鏡,滅燭夜窓傾玉罌。
醉酒掃愁宜賞影,猶思詩句稔髭長。

燦燦 0628 サンサン 明らかに輝くさま
煌煌 0625 コウコウ 明らかに輝くさま
1042 ロウ 彫る 刻む ちりばめる 飾る
紫気 0779 シキ 紫色の雲気 目出たいこと
清商 0593 セイショウ 音律の商の音階 秋風
胡搨 0477 コトウ 胡は異民族 日訳 洋椅子
金鏡 1027 キンキョウ 金で飾った鏡 月の別名
0798 オウ 腹が大きく口の窄んだ瓶
稔髭 0418 ネンシ 髭を捻る 思索に耽る様子

満天燦燦又煌煌と、仰ぎ望む銀河 彼蒼に鏤む。
北斗七星 紫気を呈わし、西風萬里 清商を送る。
身を胡搨に托し金鏡に對し、燭を夜窓に滅して玉罌を傾く。
酒に醉い愁を掃い賞影宜しく、猶お詩句を思うて稔髭長し。

 

 


14−
   秋郊散策 
    上平二冬韵平起

村田黄稲穂容容,看過郊畦秋色濃。
千樹空林漂白露,一條古路傲青松。
岫雲去處吐山月,梧葉下時吟草蛩。
喞喞啾啾恣風韻,傾聴恍忽尚憂農。

黄稲 オウトウ 黄色な稲
容容 0280 ヨウヨウ 容れる 形 なみなみと
空林 0737 クウリン 木の葉の落ち尽くした林
草蛩 0879 ソウキョウ 蝗 コオロギ
喞喞啾啾 シュクシュクシュウシュウ 秋虫の鳴く形容
恍忽 コウコツ うっとりとする
風韻 フウイン 雅な趣 優れた様子 風の音
0303 シュウ ☆ 由は酉に通じ、酒器の意味、酒壷の様に深い山の穴の意味を表す

村田の黄稲 穂容容と、看す郊畦を過ぎれば 秋色濃かなり。
千樹の空林 白露を漂はせ、一條の古路 青松傲る。
岫雲去る處 山月吐き、梧葉下時 草蛩吟ず。
喞喞啾啾 風韻を恣にし、傾聴恍忽として尚農を憂う。

 

 


15−
   秋郊散策
   上平八斎韵平起

平田萬頃稲雲低,扶杖閑行草舎蹊。
秋樹禽聲聞遠近,園林叟歩過東西。
風飄梧葉正粛寂,雨散蕎花已惨悽。
乗興山郊天欲老,黄昏樹藹夕陽迷。

稲雲 トウウン 一面の水田の形容
東西 トウザイ あちらこちら ☆品物
粛寂 セイジャク ひっそりと静まりかえる
惨悽 0380 サンセイ 悼む痛ましく悲しい
0033 ノル 乗る 凌ぐ 計る 単位 記録
樹藹 0464 ジュアイ 樹木が生い茂って暗い
1091 ケイ 近来 暫時 傾ける 面積の単位 ☆ 一頃は百畝 周代の一畝は約1.82
蕎花 0863 キョウカ そばの花 ☆ 蕎は春と夏二度蒔つけ初夏と秋二度収穫できる

平田萬頃 稲雲低れ、杖に扶けられ 閑行す 草舎の蹊。
秋樹の禽聲 遠近に聞き、園林の叟歩 東西を過ぐ。
風は梧葉を飄して正に粛寂、雨は蕎花を散らし已に惨悽たり。
乗興の山郊 天老いんと欲し 黄昏の樹藹に 夕陽迷う。

 

 


16−
   秋郊散策 
   上平八斎韵仄起

看過山郊野郭蹊,平田十里稲雲低。
秋光村落正蕭寂,暮露園林也惨悽。
斜照消時微雨下,紫烟流處綺峰迷。
吟望風物促詩興,幽賞騒人揮筆題。

野郭蹊 田舎の小径
稲雲 トウウン 稲穂が一面で雲のよう
蕭寂 0866 ショウセキ 寂しくひっそり
惨悽 0380 サンセイ 悼む痛ましく悲しい
斜照 シャショウ 太陽が西に傾く
紫烟 シエン 紫の煙 目出たい雰囲気を表現
騒人 1118 ソウジン 詩人 ☆ 離騒の作者屈原やその門弟宋玉などの流派の詩人

看す過ぐ山郊野郭の蹊、平田十里 稲雲低る。
秋光の村落 正に蕭寂、暮露の園林 也た惨悽。
斜照消ゆる時 微雨下り、紫烟流る處 綺峰迷ふ。
風物を吟望して 詩興を促し、幽賞の騒人 筆を揮って題す。

 

 


17−
   客舎勁秋
    下平陽韵平起

中庭曲筧響虚廊,被惹客愁尋思長。
竹影映窓風戦葉,蛩聲聞砌月窺房。
紫雲漠漠醸秋氣,白露盈盈凝夜涼。
阡陌郊田新稲熟,應知郷里又多忙。

曲筧 0451 0750 キヨクケン ☆獅子脅し
客愁 キャクシュウ 任地や旅先での物思い
漠漠 0606 バクバク 一面に続く 薄暗い
阡陌 1056 センパク 耕作地の間にある
應知 1226 オウ まさに、、べし 再読文字 推量 当然 きっと、、で有ろう
唐王維雑詩 君自故郷來 応知故郷事 貴方は故郷からやって来た当然故郷の事は 知っているでしょう

中庭の曲筧 虚廊に響き、客愁を惹被 尋思長し。
竹影は窓に映じ 風は葉を戦せ、蛩聲は砌に聞ききて 月は房を窺う。
紫雲漠漠として秋氣を醸し、白露盈盈として夜涼を凝らす。
阡陌郊田 新稲は熟し、應に郷里又多忙なるを知る。

 

 


18−
   清秋偶得    下平七陽韵仄起

臨水黄茅満野塘,浮雲碧落色蒼蒼。
星光明滅天将老,月色蕭疏地亦芒。
千里夢郷憐散客,半生攻句絞枯腸。
忙中未廃閑中課,既失詩題字幾行。

黄茅 0842 ボウ 茅 すすき
蕭疏 0867 ショウソ 草木の葉が疎らで寂しい
枯腸 0505 コチョウ 詩文の才能の無い事
忙中 閑中 ☆ 一句中に有る相対関係の言葉
碧落 0856 0714 ヘキラク 落は広大の意 唐白居易長恨歌 上窮碧落下黄泉
蒼蒼 ソウソウ 青々 ☆ 同じ文字を重複して意味を強調する
芒 0834 ボウ 禾 毛先 針 光先 暗 滅びる 忘れ ぼんやり ススキ 慌ただしい

水に臨みし黄茅は 野塘に満ち、浮雲は碧落として 色は蒼蒼たり。
星光明滅して 天 将に老い、月色蕭疏として 地 亦た芒たり。
千里に 郷を夢みて 散客を憐れみ、半生 句を攻めて 枯腸を絞る。
忙中 未だ廃せず 閑中の課、既に詩題を失して 字幾行か。

 


19−
   山居逢秋
   下平七陽韵仄起

旅叟逢秋易感傷,歸心半夜夢家郷。
松山結屋孤身老,井里無朋百恨長。
曾爲豚兒圖富貴,浪繙蠧册教文章。
浮生何事自愆怠,徒惹舊愁双鬢霜。

井里 0046 イリ 村里
豚兒 0943 トンジ 自分の子を遜って言う
教 1227 キョウ 使役 唐白居易長恨歌
愆怠 0369 ケンタイ 怠ける 
蠧册 0888 トサツ 虫食いの本 ☆ 蠹と蠧は同じ文字 
曾 1232 カツテ 嘗て 唐李白蘇台覧古詩 曾照呉王宮裏人 即ち 孟子 爾何曾比予於管仲
爲 1224 イ たり 断定 史記項羽本紀 ために 目的 史記刺客予譲伝 らる 受け身

旅叟 秋に逢いて 感傷し易く、歸心半夜 家郷を夢む。
松山に屋を結んで 孤身老い、井里に朋無くして 百恨長し。
曾て豚兒が爲に富貴を圖り、浪に蠧册を繙きて文章を教えしに。
浮生 何事か 自から愆怠し、徒に舊愁を惹く双鬢の霜。

 


20−
   秋杪山居   
下平九青韵仄起

秋氣漫天風過庭,偶凭曲檻見流星。
初更山月渡松壑,數箇村燈照竹屏。
闡、残樽宜買醉,暫拈禿筆笑無靈。
任他両鬢加華髮,三歳客蹤如轉萍。

漫 0610 マン 広い 蔓延る 勝手に そぞろ
初更 0123 ショコウ 夜の八時頃
松壑 ショウガク 松の生える山岳 谷 
竹屏 0744 0394 チクヘイ 竹で作った衝立
禿筆 トクヒツ ちびた筆
無靈 インスピレーションの湧かぬ事
任他 さも有らばあれ どうせ
華髮 カハツ 白い髪の毛 
客蹤 キャクショウ 来客の足跡 通行の形跡
轉萍 テンヒン 浮き草

秋氣は天に漫り 風は庭を過ぎ、偶 曲檻に凭りて 流星を見る。
初更の山月は松壑を渡り、數箇の村燈は竹屏を照らす。
閧ノ残樽を側け 醉を買に宜しく、暫く禿筆を拈りて 靈無きを笑う。
任他 両鬢に華髮を加え、三歳の客蹤 轉萍の如くなるを。

 

 


21−
   秋日散策
   下平八庚韵平起

涼宵淫雨暁來晴,起見村田黄稲傾。
靉靆雲藏山野去,潺湲溪遶竹林行。
荒蕪水渚秋鴻度,静寂野祠梁燕征。
露井梧桐飄古葉,正知落木促愁情。

涼宵 0595 リョウ ショウ 涼しい夜
淫雨 0588 インウ 長雨
起 0960 キ 跪き立ち上がる意味を表す
靉靆 1081 アイタイ 雲のたなびく様
潺湲 0612 センカン 浅い水の流れるさま
荒蕪 0844 コウブ 荒れて雑草の生い茂る
鴻 1145 コウ ☆ 鴻は大きい意 大きい水鳥
露井 1081 ロセイ 屋根のない井戸
正 0541 セイ ☆ 真っ直ぐ進撃する意
落木 0856 ラクボク 冬枯れの木

涼宵の淫雨 暁來晴れ、起ち見る村田 黄稲の傾く。
靉靆たる雲は 山野を藏し去り、潺湲たる溪は 竹林を遶りて行く。
荒蕪の水渚 秋鴻度り、静寂たる野祠 梁燕征く。
露井の梧桐 古葉を飄えし、正に知る 落木は愁情を促すを。

 

 


22−
   清夜
   上平一東平起

露珠林木欲黄紅,天際地涯炎暑空。
秋嶽寂然斜照月,夜窓爽颯嫩寒風。
轅門髦士羨心外,澤國旅魂愁感中。
宜索呂望垂釣趣,漁磯臨水一簑翁。

寂然 0281 セキゼン ひっそりとして静か
爽颯 0638 ソウサツ 爽やかに吹き抜ける風
嫩寒 0262 ドンカン しなやかな寒さ 
轅門 0981 エンモン 軍門 陣屋 役所の意
髦士 1127 ボウシ 優れた人物
羨心 0806 センシン 欲しがる 邪 残り の心
澤國 0567 タクコク 湖沼の多い地方 水郷
垂釣 0212 スイチョウ 釣りをする 
呂望 0179 リョボウ 呂尚 太公望 周の政治家 史記斎太公世家

露珠の林木 黄紅ならんと欲し、天際地涯 炎暑空し。
秋嶽 寂然 斜照の月、夜窓 爽颯 嫩寒の風。
轅門の髦士 羨心の外、澤國の旅魂 愁感の中。
索に宜し 呂望垂釣の趣、漁磯 水に臨む一簑翁。

 

 


23−
   清秋観月   上平一東韵平起

雲流風淨晩涼通,江月在樓欄檻東。
玉兎登天蛩織地,氷輪泛水雁書空。
愛看十五夜分外,照出三千世界中。
吟賞嫣然詩可賦,嫦娥明艶影玲瓏。

玉兎 0656 ギョクト 月に住む兎 月
氷輪 ヒョウリン 0560 澄みきった月
嫣然 0262 エンゼン すらりとして美しい
嫦娥 0262 ジョウガ 月にいる美人 月
玲瓏 0659 レイロウ 玲玲 玲琅 透き通るように美しい 唐白居易長恨歌
☆ 有 表示領有 否定形式 没有 有+名 用作連動句前一句
在 存在 表示人或事物存在的処所、位置 一般要帯賓語

雲流れ風淨く 晩涼通じ、江月は樓の欄檻の東に在り。
玉兎は天に登り 蛩は地に織り、氷輪は水に泛び 雁は空に書す。
愛し看る十五夜分の外、照出す三千世界の中。
吟賞 嫣然たり 詩 賦す可く、嫦娥明艶として 影玲瓏たり。

 

 


24−
   清秋獨夜 
  下平八庚韵平起

啾啾喞喞促愁情,断続蟲聲夜二更。
銀漢満天雲隠月,金風掃地霧篭城。
餘涼草木湛珠露,滋味蠏螯傾玉罌。
詩酒相宜眠又好,陶陶醉裡夢魂平。

銀漢 ギンカン 銀河 天の川
金風 キンプウ 秋風
城 シロ 現代に置き換えれば街を指す
餘涼 0071 ヨリョウ 余分な涼しさ
滋味 0598 ジミ 好い味 滋養に成る食べ物
蠏螯 0886 カイゴウ 蟹と蠏は同文字 蟹の鋏
玉罌 0798 ギョクオウ 立派な徳利
喞喞啾啾 シュクシュクシュウシュウ 秋虫の鳴く形容
陶陶 1063 トウトウ 馬を走らせる 滔々 和らぎ楽しむ 長い 陽気の盛ん

啾啾喞喞愁情を促し、断続たる蟲聲 夜二更。
銀漢は天に満ちて 雲は月を隠し、金風は地を掃いて 霧は城を篭む。
餘涼 草木は珠露を湛え、滋味 蠏螯は玉罌を傾く。
詩酒 相い宜しく 眠るも又好く、陶陶たる醉裡 夢魂平なり。

 

 


25−
   清秋獨夜
   下平八庚韵平起

寂寥村落暮煙横,處處草蟲鳴又鳴。
隠几讀残書數巻,挑燈吟到夜三更。
雲流天表千林静,月上山頭半壑明。
秋氣侵肌蘇病骨,深窓閑坐一心平。

寂寥 0281 セキリョウ ひっそりとして物寂しい
暮煙横 ボエン 暮れ方に掛かる霞か夕餉の煙  
壑 0224 ガク 谷
病骨 0681 ビョウコツ 病気に掛かって居る身体

寂寥たる村落 暮煙横たわり、處處の草蟲 鳴き又鳴く。
几に隠り 讀み残す 書 數巻、燈を挑げ 吟じ到る 夜 三更。
雲は天表に流れ 千林静かに、月は山頭に上り 半壑明かなり。
秋氣は肌を侵して 病骨を蘇らし、深窓に閑坐し 一心平かなり。

 

 


26−
   静夜
    下平九青韵仄起

爽氣滔天露満庭,重圍屹立四山青。
初更秋月挂松杪,數戸村燈迷野屏。
傾盡残樽思玉醴,閑裁長句缺精靈。
任他両鬢斑斑白,詩酒醉狂身若萍。

爽氣 0619 ソウキ 広大な気 天井の気 秋の気
重圍屹立 チョウイキリツ 重なり囲んで立ち並ぶ
松杪 0500 0503 ショウビョウ 松の梢 先端 
屏 0394 ケイ衝立
玉醴 0656 ギョクタイ 貴人の身体 美人の身体 
精靈 0763 セイレイ 神又は獣 不思議な能力
醉狂 スイキョウ 酒に酔って心が乱れる ☆物好き 好事家 酔興
☆ 残 ザン 損なう 傷 惨い 悪い 残る 煮た肉 肉を削いだ後の形象 ズタズタに切るの意

爽氣天に滔り 露は庭に満ち、重圍屹立の四山は青し。
初更の秋月 松杪に挂かり、數戸の村燈 野屏に迷う。
残樽を傾け盡して 玉醴を思い、閑に長句を裁して 精靈を缺く。
任他 両鬢 斑斑白く、詩酒に醉狂し 身は萍の若し。

 

 


27−
   寓居清秋
   下平十四塩韵平起

西風颯颯払残炎,數畝草庭珠露霑。
日夕寒蜩四隣咽,哀鳴断雁一聲淹。
林嵐奕奕郷愁促,夜氣沈沈客恨添。
莫道索居無得意,仲秋松月伺茅檐。

西風 セイフウ 秋風
數畝 スウセ 畝は面関の単位 少しの面積
日夕 ニッセキ ひがら一日
蜩 0882 チョウ 蝉 蝉の総称
断雁 0443 ダンガン はぐれ雁
淹 0588 エン 浸す 久しい 敗れる 広い
奕奕 0248 エキエキ 大きい 盛ん 美しい 愁え
沈沈 0568 チンチン 盛ん 草木茂る 静寂 夜更け
客恨添 キャクコンソウ 旅人が段々悲しくなる
索居 0769 サクキョ 交際しないで寂しくいる

西風颯颯として 残炎を払い、數畝の草庭に 珠露霑う。
日夕の 寒蜩 四隣に咽び、哀鳴たる 断雁 一聲淹る。
林嵐 奕奕 郷愁促し、夜氣 沈沈 客恨添う。
莫道 索居 意を得る無きと、仲秋の松月 茅檐を伺う。

 

 


28−
   秋夜
   下平八庚韵仄起

四壁蕭條秋思生,案前坐對一燈檠。
読書有味宜開帙,酣醉消愁笑斯生。
此日此時天皎潔,今年今夜月分明。
當窓景物催幽興,恍聴蟲聲眠不成。

蕭條 0866 ショウジョウ 物静か 草木が枯れる
案前 アンゼン 机の前
燈檠 トウケイ 今日の電気スタンドに相当する
帙 0315 チツ 文包み 目次 編序 
酣醉 1019 カンスイ 泥酔 ひどく酒に酔う
皎潔 0691 コウケツ 白くて汚れないこと
恍 0378 コウ ほのか 形のない うっとりと

四壁蕭條として秋思生じ、案前に坐し對す一燈檠。
読書 味有り 宜しく帙を開き、酣醉 愁を消して斯の生を笑う。
此日此時 天皎潔、今年今夜 月分明。
當窓の景物 幽興を催し、恍として 蟲聲を聴き 眠 成不。

 

 


29−
   秋夜
   下平八庚韵平起

西風瑟瑟夢魂驚,早聴吟蛩繞屋鳴。
揺曵素簾留月色,婆娑苦竹助秋聲。
舊愁未去催華髪,新恨欲消寫此情。
酒薄夜寒醺易醒,初更閑酌到三更。

瑟瑟 0663 シツシツ 寂しげに吹く音の形容
夢魂 0232 ムコン 夢中の魂 死者の魂 白居易長恨歌
揺曵 0422 ヨウエイ 揺らぎたびく
素簾 0770 ソレン 白いカーテン
婆娑 0258 バサ 舞う 歩き回る 乱れ散る
苦竹 0840 クチク 竹の一種 まだけ 呉竹
舊愁 0449 キュウシュウ 過去の愁い
華髪 カハツ 白髪 
醺 1022 クン 酔う 酔わす 臭う 染まる 
初更 ショコウ 夜の八時頃 三更 サンコウ 夜の十二時頃

西風 瑟瑟として 夢魂驚き、早に聴く 吟蛩 屋を繞りて鳴くを。
揺曵たる 素簾 月色を留め、婆娑たる 苦竹 秋聲を助く。
舊愁 未だ去らずして 華髪を催し、新恨 消さんと欲して此の情を寫す。
酒は薄く 夜は寒く 醺 醒め易く、初更の閑酌 三更に到る。

 

 


30−
    秋夜吟
   上平七虞韵平起

閑吟有興苦中娯,短筆未工裁句麁。
非以詩文諛世俗,啻令胸臆去荒蕪。
仙寰徽韻那邊訊,人界悲歌可賞無。
脈脈西風彌萬里,鈞天廣楽適河圖。

諛 0933 ユ 諂う おもねる
徽 0793 キ 良い 善美 印 束ねる
鈞天 1029 キンテン 天の中央 又其処で奏す音楽
廣楽 4-622 コウガク 広大な音楽城の名
啻 0191 シ ただ D 不や何の下に付け不啻や何啻とし 単に其ればかりでは無いという意味
河圖 0571 カト 中国の伝説で、黄河から現れた竜馬の背に現れていた図、卦の元となった
☆ 仙界の音楽は何処に往けば聞けるのか、人界のエレジーは賞するに値するのか

閑吟興有り 苦中の娯、短筆未だ工せず裁句麁し。
詩文を以って 世俗に諛に非ず、啻 胸臆をして荒蕪を去ら令や。
仙寰の徽韻 那邊にか訊ね、人界の悲歌 賞す可や無や。
脈脈たる西風 萬里を彌り、鈞天の廣楽 河圖に適う。

 

 


31−
   秋夜吟
    上平五微韵平起

西郊田野稲雲肥,舊井孤桐一葉飛。
疎柳梳風條失色,老蛩咽露語如違。
三秋静夜不須扇,九日微寒未襲衣。
個裡乾容坤態改,黄花開落識天機。

舊井 キュウセイ 古井戸 古い掟
老蛩 ロウキョウ 老いたコオロギ 寒い時期のコオロギ
三秋 サンシュウ 三年 秋の三ヶ月
九日 0035 キュウジツ 九箇の太陽 陰暦九月九日
微寒 ビカン 少しの寒さ
襲 0895 シュウ 重ねる 上下揃っている着物
天機 0241 テンキ 天の秘密 天の運行する働き
個裡 0082 コリ 個々別々に存在する物
乾容坤態 0038 乾坤容態の書き換え 乾坤は易の天地陰陽 天地の様子も

西郊の田野 稲雲肥え、舊井の孤桐 一葉飛。
疎柳 風に梳られ 條は色を失い、老蛩 露に咽びて 語 違うが如し。
三秋静夜 扇を不須、九日微寒 未だ衣を襲わず。
個裡の乾容 坤態改まり、黄花開落して天機を識る。

 

 


32−
   秋夜吟
   上平五微韵平起

詞客常留識字憂,烟霞痼癖幾時休。
青山苦雨蕭蕭夜,白屋悲風瑟瑟秋。
千首有詩無世用,一瓶沽醉鬻吟愁。
赤貧生計痩身老,半百餘年正笑鳩。

痼癖 0683 0685 コヘキ 長い間の癖
苦雨 クウ 降り続く雨
白屋 ハクオク 白は素に通じ質素な家屋
無世用 ヨノモチウルナシ 世間の用に立たぬ
沽酒 0572 コシュ 買った酒 店売りの酒
赤貧 0958 セキヒン ひどい貧乏で何も持っていない
鬻 1131 シュク 粥 見せびらかす 欺く 養う 釜から蒸気の出ている形をかたどる 賣に通ず
鳩 1142 キュウ 鳩 鳩は巣を作ることが下手という、物事の下手に例える 詩経召南鵲巣

詞客は常に識字の憂を留め、烟霞の痼癖 幾時の休。
青山の苦雨 蕭蕭の夜、白屋の悲風 瑟瑟の秋。
千首の詩有って 世用無く、一瓶の醉を沽い吟愁を鬻ぐ。
赤貧の生計 痩身老い、半百の餘年 正に鳩に笑わる。

 

 


33−
    秋夜書懐
「前聯古人成句」
         上平三魚韵平起

故吾塵慮毎齟齬,落魄貧窮守敝廬。
世態變遷妻子傲,人情浮薄友朋疎。
誰憐老病仍煎薬,不管時流偏愛書。
任爾三餘求雅韻,裁詩敲句送居諸。

故吾 0433 コゴ 古い私 昔者
老病 0813 ロウビョウ 老衰から起こる病気
不管 0752 カンセズ 支配 管理 束縛 要 の否定
任爾 0065 サモアラバアレ どうせ
居諸 キョショ 日居月諸 月日のこと
裁詩敲句 サイシ コウク 詩句をあれこれ思案する
齟齬 1168 ソゴ 上下の歯が食い違って合わないこと 物事の食い違うこと
三餘 0017 サンヨ 勉強すべき三つの余暇 年の余りの冬と日余の夜と時余の雨降の時 魏志王粛伝

故吾の塵慮 毎に齟齬し、落魄たる貧窮に 敝廬を守る。
世態變遷して妻子傲り、人情浮薄にして友朋疎なり。
誰ぞ憐まん 老病仍薬を煎るを、時流に不管 偏に書を愛す。
任爾 三餘に雅韻を求め、裁詩敲句に居諸を送る。

 

 


34−
  秋夜閑居迎客
  上平十二文韵仄起

一境清閑絶暑氛,翠松山下已秋分。
暗蟲入夜吟幽草,眉月窺窓伴錦雲。
拈筆初更詩未就,把觴數酌酒方醺。
自嗤迎客醉呼睡,細語長談半夢聞。

暑氛 ショフン 暑苦しい気候
暗蟲 0467 アンチュウ 密かに 暗闇 地下 居る虫
拈筆 フデヲヒネル 執筆にあれこれする
醺 1012 クン 酔う 酒臭い 染まる
錦雲 キンウン 金色に輝く雲 夕日や月にて照らされて金色になる
方 1234 ホウ まさに 今や 史記項羽本紀 如今 人方為刀俎 我為魚肉 今、彼らは包丁とまな板、で 我々は魚肉のような立場である。

一境の清閑 暑氛絶え、翠松山下 已に秋分。
暗蟲は夜に入り 幽草に吟じ、眉月は窓を窺いて 錦雲を伴う。
筆を拈り 初更 詩未だ就かず、觴を把り 數酌 酒方に醺しむ。
自ら嗤う 客を迎え 醉 睡を呼ぶを、細語 長談 半ば夢に聞く。

 

 


35−
    明月
   上平一東韵平起

一輪明鏡画樓東,心賞清容度碧穹。
照出山川情太惹,登來天地興無窮。
連宵玉兎毎相好,今夜銀蟾是不同。
三五晴霄仍似晝,放光皎潔影玲瓏。

明鏡 メイキョウ 月の別称
画樓 0121 ガロウ 絵のように美しい高殿
穹 0736 キュウ 大空 弓形に盛り上がった
玉兎 ギョクト 月の別称 月に住むと言う兎
銀蟾 1033 ギンセン 月の別名 蟾は月に住むと言うヒキガエル
是 ゼ 同動詞 主要起肯定和関係的作用、併可以表示多種関係 謂語的主要部分在、是、后辺。只能用、不、否定

一輪の明鏡 画樓の東、心賞の清容 碧穹を度る。
山川を照出して 情 太だ惹き、天地を登來して興 窮り無し。
連宵の玉兎 毎に相い好くも、今夜の銀蟾 同じからず。
三五の晴霄 仍お晝に似て、放光皎潔 影玲瓏。

 

 


36−
   観月
   下平八庚韵平起

秋風初夜聽蟲聲,傲草蔓庭凝露清。
天界蒼澄雲不見,月光皎潔雨全晴。
斜窺瓦屋半簾白,遍照山村一徑明。
遠想今宵正浄寺,野狸鼓腹韻彭彭。

一徑明 イチケイアキラカナリ 一筋の道を照らす
彭彭 0344 ホウホウ 盛ん 行く 壮ん 膨れ
鼓腹 1164 コフク 腹鼓を打つ ☆ 鼓腹撃壌 一八史略 五帝帝尭
正浄寺 ☆ 童謡に詠われた正浄寺の狸囃子 寺は千葉県木更津市の市街地にある

秋風初夜 蟲聲を聽き、傲草庭に蔓り 凝露清し。
天界蒼澄 雲見不、月光皎潔 雨全く晴る。
斜に瓦屋を窺い 半簾白く、遍に山村を照らし 一徑明なり。
遠く想う 今宵の正浄寺、野狸の鼓腹 韻 彭彭たるかと。
☆ 童謡の世界と現実を重ね合わせ、読者をして童心の世界を想起させる

 

 


37−
   仲秋賞月
   上平一東韵平起

仲秋賞月曲江東,久待登臨高閣中。
玉府忽開光世界,銀盤仍度碧旻穹。
伴雲有態風情好,映水無痕明暗同。
騒客怡然詩可賦,今宵短筆欲成工。

高閣 コウカク 高殿
玉府 ギョクフ 月の別称
銀盤 ギンバン 月の別称
碧旻穹 ヘキビンノソラ 青々とした大空
騒客 ソウキャク 離騒の作者屈原に由来詩人の意
恰然 0375 イゼン 歓び楽しむ ニコニコする
短筆 0708 タンヒツ 拙い文章力 短い筆
工 0309 コウ 巧み 作る 仕事 楽師 占師 役人
仲秋 チュウシュウ 秋三カ月の真ん中の月
仲商 ☆ 中春 仲夏 中秋 仲冬

仲秋の賞月 曲江の東、久しく登臨を待つ 高閣の中。
玉府 忽ち開く 光世界、銀盤 仍お度る 碧旻の穹。
雲を伴い 態有りて 風情好く、水に映じ 痕無く 明暗を同うす。
騒客は怡然として 詩 賦す可く、今宵の短筆 工 成らんと欲す。

 

 


38−
   仲秋明月鑑賞會
  上平一東韵平韵

清秋良夜鏡湖東,待月蘭疇高閣中。
忽地開來光世界,皎然自度碧旻穹。
嫦娥泛水容姿好,蟾魄乗雲明暗通。
此日期時佳興覺,抽毫偏覓詠詩鴻。

鏡湖 キョウコ 鏡のように澄みわたった湖
忽地 コツ チ 忽ち 地は助字で解釈の要無し
皎然 0691 コウゼン 明らか 光輝く
自 1230 ジ 自分で 自然に ,から 仮定
碧旻 0714 0455 ヘキビン 青き秋の空
嫦娥 ジョウガ 月の別称
蟾魄 0887 センコン 蟾はヒキガエル 月の別称
抽毫 0407 チュウゴウ 筆を引く 筆で文字を書く
蘭疇 0872 0678 蘭は花の蘭 疇は耕作地 朋 ☆ 蘭を敬称として用い 良き友

清秋の良夜 鏡湖の東、月を待つ蘭疇 高閣の中。
忽地 開き來る光世界、皎然 自から度る 碧旻の穹。
嫦娥は水に泛び 容姿好、蟾魄は雲に乗じ 明暗通ず。
此日期時 佳興を覺え、抽毫 偏に覓む 詠詩の鴻なるを。

 

 


39−
   観月酒楼雅會
  上平十灰韵仄起

此夕高楼得意來,詩人墨客共遊陪。
賞秋倶賦今宵月,向夜相傾美禄杯。
三唱酔吟弦佐興,一場談笑酒為媒。
舊朋新友無差別,揮筆尋奇競捷才。

得意 0353 トクイ 自分の心に適う 心地よい
墨客 ボクキャク 詩人墨客 閑人
遊陪 1003 1062 ユウバイ 付き添い遊ぶ
美禄 ビロク 美味しいお酒
一場 イチジョウ その場所
捷 0416 ショウ 戦利 素早い 賢い 続く

此夕の高楼 得意に來り、詩人墨客 共に遊陪す。
賞秋 倶に賦す 今宵の月、向夜 相い傾く 美禄の杯。
三唱の酔吟 弦は興を佐け、一場の談笑 酒は媒を為す。
舊朋 新友 差別無く、揮筆 奇を尋ねて 捷才を競う。

 

 


40−
   月下吟秋 
  下平十四塩韵平起

秋光満地去餘炎,冷氣浸窓素服霑。
醉叟裁詩唯盡興,貧廚貰酒盍求甜。
三年遊惰舊交絶,半夜悲風新恨添。
莫道獨居無得意,松山新月候茅簷。

霑 1079 テン 潤う 湿る 濡れる
貧廚 ヒンチュウ 貧しい台所
遊惰 1003 ユウダ 遊び怠る
候 コウ うかがう
素 0770 ソ 繭から剥きだしたばかりの白い糸を表し、白い 飾り気のない 元 粗末 の意を表す
盍 1228 コウ 再読文字 どうして・・しないのか 疑問の反語 どうして・・か
莫 1233 バク 否定 ・・しない 禁止・・するな☆ 莫道 謂うなかれ

秋光 地に満ち 餘炎去り、冷氣 窓を浸して 素服霑う。
醉叟 詩を裁し 唯だ興を盡くし、貧廚 酒を貰り 盍ぞ甜きを求めん。
三年の遊惰に舊交絶え、半夜の悲風 新恨添える。
莫道 獨居 得意無しと、松山の新月 茅簷を候う

 

 


41−
    秋色暮吟
   上平四支韵平起

西郊十里曵杖時,野水從容満稲陂。
出岫閑雲含細雨,投林歸鳥愛深枝。
露叢蟲語報秋切,村樹蝉聲向晩悲。
始看黄花籬落畔,賞來却憶去年詩。

曵杖 0451 エイ ジョウ 竹製の杖を引く
從容 0351 ショウヨウ ゆったりと落ち着いている
稲陂 0733 1058 トウヒ 田圃の畦 稲穂垂れる
岫 0303 シュウ 峰 山の頂
閑雲 カンウン 閑かにたなびく雲
投 0402 トウ 頼る 泊まる 行く
黄花 1157 オウカ 黄色い花 菊の別称
籬落 0760 リラク まがき垣根 ☆落は囲いの意

西郊十里 曵杖の時、野水從容として 稲陂に満つ。
岫を出ず閑雲 細雨を含み、林に投ず歸鳥 深枝を愛す。
露叢の蟲語 報秋切に、村樹の蝉聲 向晩悲し。
始めて看る 黄花籬落の畔、賞來却って憶う 去年の詩。

 


42−
   賞菊
   上平四支韵平起

朝寒午暖杪秋時,叢菊團欒競秀姿。
隠逸陶家思遣愛,清廉屈氏味餘慈。
風流雅讌重陽楽,緑酒黄花佳節宜。
招客賞来香郁郁,艶葩含露傲東籬。

雅讌 0939 ガエン 風流人の酒盛り
緑酒 リョクシュ 萌葱色の酒 上等の酒
郁郁 1012 芳しいさま 
艶葩 0786 エンハ つやつやした花ぶさ
重陽 チョウヨウ 素数を陽とし、晴れと褻の 晴れの意味に用い 九月九日 三月三日などの目出たい日
陶家 東晋末の詩人 字名は淵明 五柳先生と称す 酒と自然を愛し琴を朋として田園生活をした屈氏 ☆ 楚の王族 楚辞の代表作家 反対派の讒言に依って退けられ、泪蘿で自殺したと言う

朝寒 午暖 杪秋の時、叢菊團欒と 秀姿を競う。
隠逸陶家 遣愛を思い、清廉屈氏 餘慈を味う。
風流の雅讌は 重陽に楽しく、緑酒 黄花 佳節に宜し。
招客 賞来 香郁郁たりて、艶葩 露を含んで 東籬に傲る

 

 


43
  賞菊
 詠物  上平十四寒韵仄起

逸興騒人袖手観,東籬叢菊玉團團。
天姿値李葩尤好,風態凌霜影未残。
靖節先生挂冠愛,屈平夫子結寃餐。
晴秋也會重陽日,浮酒拂災須竭歓。

逸興 0997 イッキョウ 世俗を離れた風流な趣 靖節先生
陶淵明 屈平夫子 屈原
拂災 1024 ☆ 重陽の節句の日に邪気を払う習慣がある
袖手 0896 シュウシュ 懐手をする 
☆ 袖手傍観 何もしないで成り行き任せに見物する
挂冠 0411 ケイカン 官を去り職を辞す 後漢書逢萌伝
結寃 0777 ケツエン 恨みを生ず何時までも消えない恨み 深い恨み

逸興 騒人 袖手に観る、東籬の叢菊 玉團團たり。
天姿 李に値い 葩尤も好く、風態 霜を凌いで 影 未だ残なわず。
靖節先生 挂冠愛し、屈平夫子 結寃餐う。
晴秋 也た會す重陽の日、酒に浮べ 災を拂い 須く歓を竭すべし。

 

 


44−
   熊野神祠
  上平四支韵仄起

吟履展來熊野祠,昨宵雨霽絶塵宜。
千年古廟賽人少,一境平林零露滋。
語友聲聲他郷客,摩天欝欝老杉枝。
囘観今昔豈無感,況是南都秋暮時。

吟履 0300 ギンリ 詩人の履き物
熊野 クマノ゙ 固有名詞 熊野神社
絶塵 世間の俗事から隔てられる
賽人 サイジン 参拝の人
聲聲 セイセイ 人の話し声の形容
摩天 天に聳え立つ形容
欝欝 ウツウツ 木々の聳え立つ形容
今昔 0055 コンセキ 今ひと昔
況 1227 まして,,はなおさらだ
豈 アニ 1227 反語 どうして,,か 名豈文章著

吟履 展じ來る 熊野の祠、昨宵の雨霽れ 塵絶えて宜し。
千年の古廟 賽人 少に、一境の平林 零露 滋し。
聲聲と友と語る 他郷の客、欝欝と天に摩す 老杉の枝。
囘観す 今昔 豈に感無からんや、況んや是れ 南都秋暮の時か。

 

 


45−
   深秋散策     上平二冬韵仄起

四野秋深既改容,西陬天際夕陽舂。
歸禽噪暮村祠樹,疎杵聞時山寺鐘。
瑟瑟金風吹颯過,溥溥玉露凍凝濃。
蟲聲満地牽詩緒,小經無人失舊蹤。

陬 1062 スウ 隅 ☆西陬 西の村 西の片田舎
舂 0827 ショウ 臼衝く 太陽が没する
歸禽 キキン ねぐらに帰る鳥
杵 0500 ショ きね 槌 杵で衝く
金風 キンプウ 秋風の別称
溥溥 0606 フ フ 大きい 広々 ゆきわたる
詩緒 0784 シ チョ 詩の糸口 詩の発端

四野 秋深く 既に容を改め、西陬の天際 夕陽舂く。
歸禽 暮に噪ぐ 村祠の樹に、疎杵 時に聞く 山寺の鐘。
瑟瑟たる金風 吹颯と過ぎ、溥溥たる玉露 凍凝濃かなり。
蟲聲 満地 詩緒を牽き、小經人無く舊蹤を失う。

 

 


46−
   深秋散策
    下平七陽韵平起

溪蹊移歩已淒涼,露下草蟲啾喞長。
落日西山煙靄重,平田北郭稲雲香。
機心退却吟情擅,適意悠然塵事忘。
蹤跡蹣跚三四里,獨憑孤杖弄風光。

溪蹊 ケイケイ 谷の小径
啾喞 0191 シュウショク か細い声 集まり騒がしい声
稲雲 トウウン 稲穂が一面に広がるさま
機心 0531 キシン 策を企む心 投機の心
適意 テキ イ 意に叶う 悠然 0366 エウゼン のどかなさま
蹤跡 0969 ショウセキ 足跡 足跡をたどる
蹣跚 0970 ハンサン 足を引きずって歩く

溪蹊 歩を移せば 已に淒涼、露下の草蟲 啾喞長し。
落日 西山 煙靄重く、平田 北郭 稲雲香し。
機心退却し吟情擅に、適意悠然 塵事忘る。
蹤跡 蹣跚 三四里、獨り孤杖に憑り風光を弄す。

 

 


47−
   観楓
   上平一〇灰韵仄起

緩歩行吟逸興催,更求風趣上高臺。
聯飛雁影悠然去,長嘯猿聲愁殺來。
秋嶽霜痕新画軸,夕陽斜照好詩媒。
観光客在楓林許,可勝春花賞満開。

緩歩 0788 カンポ ゆっくりと歩く
逸興 0997 イッキョウ 世俗を離れた風流の趣 
聯飛 レンヒ 隊列を組んで飛ぶ
悠然 0366 エウゼン のどかなさま 
長嘯 0198 チョウショウ 長い鳴き声
霜痕 0441 ソウコン 霜にあって紅葉したさま
画軸 0121 ガジュク  
楓林 フウリン 楓の林 紅葉した林

緩歩 行吟 逸興催し、更に風趣を求めて 高臺に上る。
聯飛 雁影 悠然去り、長嘯 猿聲 愁殺し來る。
秋嶽 霜痕 新画軸、夕陽 斜照 好詩媒。
観光の客は楓林の許に在りて、春花の満開を賞するに勝る可し。

 

 


48−
   観楓
   上平二冬韵仄起

日暖風清趁舊蹤,香城揮筆寫秋容。
高低遠近多紅葉,錦繍紋斑間翆松。
四面宜囘双客屐,三門奪目一攀龍。
應優春興百花色,満目楓林趣轉濃。

舊蹤 キュウショウ 古き足跡
香城 コウジョウ 寺院
秋容 シュウヨウ 秋の姿
錦繍 1037 キンシュウ 錦と刺繍と ☆ 美しい物の例え
間 1050 カン 隔てる 隙間
三門 0017 寺院の門 ☆ 悟りを開くに空門 無相門 無作門 の三っの解脱門を経るのなぞらえ

日暖かに 風清く 舊蹤を趁い、香城 筆を揮い 秋容を寫す。
高低 遠近 紅葉多く、錦繍 紋斑 翆松を間つ。
四面 宜しく囘すべし 双客屐、三門 目を奪う 一攀の龍。
應に優なるべし 春興 百花の色に、満目の楓林 趣 轉た濃かなり。

 

 


49−
   観楓
    上平十五刪韵平起

故林霜葉影紋斑,訪到幽蹊霜後山。
颯地尖風吹葉舞,辣然絶壑臥雲閑。
紅楓落日煙霞外,浄閣深秋錦繍間。
詞客曵杖三四里,悠悠仰月醉吟還。

故林 0433 コリン 古い林
幽蹊 ユウケイ 静かな小径
颯地 サツチ 地を這うような早い風
辣然 0984 ラツゼン 激しい
浄閣 ジョウカク 寺院の別称
悠悠 ユウユウ 長閑なゆったりとした

故林の霜葉 影紋斑、訪い到る 幽蹊 霜後の山。
颯地 尖風 吹葉舞わし、辣然 絶壑 臥雲閑なり。
紅楓 落日 煙霞の外、浄閣 深秋 錦繍の間。
詞客 曵杖の 三四里、悠悠 月を仰いで 醉吟して還る。

 

 


50−
   観楓
 不粘格   上平十一眞韵平起

輕寒微暖可閑人,正値錦楓紅槭辰。
奇峰已占霜餘色,幽谷翻逢雨後新。
緩歩林中胸豁豁,歴観橋下水鱗鱗。
北來南去送賓雁,遠寺鐘聲度碧旻。

錦楓 キンプウ 錦のように艶やかで美しい紅葉
槭 0529 シュク かえで
豁豁 0941 カツカツ 広々 深々 
歴観 0544 レキカン 次々に見る 見渡す
鱗鱗 リンリン 魚の鱗のような水の波紋の形容
碧旻 ヘキビン 青き大空
賓雁 0955 ヒンガン 雁のこと 雁は毎年秋に来て春に去ることから賓という

輕寒 微暖 閑人に可なりて、正に値う 錦楓 紅槭の辰。
奇峰 已に占む 霜餘の色、幽谷 翻って逢う 雨後の新に。
緩歩 林中 胸 豁豁、歴観 橋下 水 鱗鱗。
北來 南去の 賓雁を送れば、遠寺の鐘聲 碧旻を度る。
註:この作品の起聯と頷聯の平仄律が正格と異なる。

 

 


51−
   楓林野宴
    上平二冬韵仄起

約鷺盟鴎印客蹤,紅楓絶境白雲封。
相観錦繍爛斑嶽,共賞混淆蒼翠松。
野宴宜斟醇酒盞,秋林探勝古人蹤。
猶追勝景忘酣醉,胸臆超然興轉濃。

印客蹤 よそ人の通った形跡を印す 
混淆 0590 入り交じって区別が付かなくなる
野宴 ヤエン 野天の宴
醇酒 1021 ジュンシュ 濃くて良い酒
酣醉 1019 カンスイ ひどく酒に酔う 
胸臆 キョウオク 胸の中なる思い
超然 0961 キョウゼン 世俗に囚われぬさま
約鷺盟鴎 約 盟 鷺 鴎 の四っの事柄が相互に掛かる文体 互文と言い対句の一形態

約鷺盟鴎 客蹤を印し、紅楓の絶境 白雲封ず。
相い観る 錦繍 爛斑の嶽、共に賞す 混淆 蒼翠の松。
野宴 斟に宜し 醇酒盞、秋林 探勝す古人の蹤。
猶お勝景を追い 酣醉を忘れ、胸臆 超然 興 轉た濃かなり。

 

 


52−
   山寺観風
   上平十一眞韵平起

天高地暖仰蒼旻,也賽山中蕭寺辰。
松濃翠蓋加玄色,楓飽嚴霜飄絳塵。
染出一林如吐焔,畫來四嶽似重茵。
縱観景勝錦春苑,綺繍爛斑處處新。

翠蓋 0809 スイガイ 青く覆い被さる松ノ木の形容
玄色 0654 ゲンショク 黒い色
嚴霜 0295 ゲンソウ 草木を枯らす程の厳しい霜
絳塵 0779 コウジン 赤い塵 紅葉の落ち葉
茵 0842 イン しとね 敷物
縱観 0791 ジュウカン 自由に見る 爛斑 0441 ランハン 斑や綾のあるさま
四嶽 0200 シガク 四方の山 ☆ 四方の名山 東 泰山 西 華山 南 衡山 北 恒山

天高く地暖かに 蒼旻を仰ぎ、也た山中の蕭寺に賽する辰。
松 翠蓋を濃かに 玄色を加え、楓 嚴霜に飽いて 絳塵を飄す。
染出す 一林 焔を吐く如く、畫き來る 四嶽 茵を重ねたるに似たり。
縱観の景は 錦春の苑より勝り、綺繍 爛斑 處處新なり。

 

 


53−
   晩秋
    上平十三元韵平起

夜長晝短易黄昏,山叟拾詩過暮村。
輕屐孤杖紅葉路,晩秋残菊夕陽園。
一弦初月懸峰淡,幾匹歸禽遶樹翻。
蕭索西郊人影絶,犬鶏聲在野農門。

山叟 サンソウ やまおやじ 自分の蔑称
拾詩 シュウシ 気侭に出歩いてみる
輕屐 ケイゲキ 軽い履き物 簡単な履き物
孤杖 コジョウ 一本の竹の杖
残菊 残は損なうの意 萎れ掛かった菊
一弦 イチゲン 弓を張ったような
歸禽 キキン ねぐらに帰る鳥
蕭索 0866 ショウサク 巡り纏う もの寂しい
西郊 セイコウ 西の部落
野農門 ヤノウノモン 農家の家の門

夜長く晝短く 黄昏なり易く、 山叟 詩を拾い 暮村を過ぐ。
輕屐 孤杖 紅葉の路、晩秋 残菊 夕陽の園。
一弦 初月 峰に懸って淡く、幾匹 歸禽 樹を遶って翻る。
蕭索たる西郊 人影絶え、犬鶏の聲は在り 野農の門に。

 

 


54−
   晩秋
   下平四豪韵平起

吟行日暮歩江皋,天半雲端片月高。
瑟瑟風吹崖木去,溥溥露使草虫號。
克催寒気付蕭索,獨踏秋塵開鬱陶。
更過孤村断橋畔,一洲寂寂水滔滔。

江皋 0691 コウコウ 河の岸 
瑟瑟 0663 シツシツ 寂しげに吹く風の形容
崖木 0305 ガイボク 断崖にある樹木
溥溥 0606 フ フ 広々とした
蕭索 0866 ショウサク 巡り纏う もの寂しい
秋塵 シュウジン 秋の塵 落ち葉を言う
鬱陶 1130 気がふさいで伸び伸びしない
寂寂 0281 セキセキ 寂しく静かなさま
滔滔 0606 トウトウ 水などが広がり漲るさま

吟行 日暮 江皋に歩めば、天半の雲端 片月高し。
瑟瑟たる風 崖木を吹き去き、溥溥たる露 草虫をして號か使む。
克つ寒気を催し 蕭索に付し、獨り秋塵を踏んで 鬱陶を開く。
更に過ぐ 孤村 断橋の畔を、一洲 寂寂 水滔滔。

 

 


55−
   晩秋郊野
   上平一東韵仄起

暮色晩秋西復東,恰逢枯葉亂飛風。
蜻蜒折翅苦零露,蟋蟀忘聲似困窮。
十里郊原寒気漾,一望草野夕暉空。
這般悽愴感無限,既見湖南渚北鴻。

恰 0378 コウ ☆心+合うで、丁度の意味
蜻蜒 0882 セイテイ 蜻蛉 とんぼ
翅 0807 シ 翼 羽 ☆翅翅は飛ぶさまを言う
零露 1078 レイロ 滴り落ちる露 
蟋蟀 0884 シツシュツ コオロギ キリギリス
這般 0992 シャハン これらの この
悽愴 0381 セイソウ 悲しく痛ましい
渚 0591 ショ なぎさ 水際 中州

暮色の晩秋 西復東すれば、恰も逢う 枯葉 亂飛の風に。
蜻蜒 翅を折り 零露に苦しみ、蟋蟀 聲を忘れ 困窮するに似たり。
十里 郊原 寒気漾い、一望 草野 夕暉空し。
這般 悽愴たり 感 限り無く、既に見る 湖南 渚北の鴻を。

 

 


56−
   晩秋夜色
   上平四支韵仄起

暮夜風光分外奇,滅燈久坐惹幽思。
月昇碧宇紫雲伴,霜染幽林黄葉滋。
村路煙深人影絶,野渓水涸鳥聲悲。
老蛩猶促殷愁切,欲賦悪詩貽阿誰。

分外 0123 ブンガイ 身分不相応 
碧宇 0714 0271 ヘキウ 青空
老蛩 ロウキョウ 時期を過ぎ掛かったコオロギ
貽 0945 イ 贈る 遺し伝える
殷愁 0550 インシュウ 深い愁い ☆ 殷は 深い 大きい 多い 
紫雲 シウン ☆ 紫の雲 ☆ 幽玄の気配を映出する雰囲気
阿 1057 ア ☆ 人を親しみ呼ぶ時に、その姓名等の上に付ける接頭語

暮夜の風光 分外に奇なり、滅燈 久坐 幽思を惹く。
月 碧宇に昇り 紫雲伴い、霜 幽林を染め 黄葉滋し。
村路 煙深く 人影絶え、野渓 水涸れ 鳥聲悲し。
老蛩 猶 殷愁を促すこと切に、悪詩を賦し 阿誰に貽らんと欲す。

 

 


57−
   山居偶感「晩秋」
  上平七虞韵平起

遠來渉世衆縁殊,寄寓三年譏老父。
閑倚書窓詩欲賦,翻抛紙筆我知愚。
悲愁倦客塵襟冷,永夜古村烟月孤。
蕭寂四隣人語絶,夢追伴友訪蓬壷。

渉世 0591 ショウエン 世を渡る
衆縁 0889 シュウエン 世俗の交わり
寄寓 0280 キグウ 仮住まいの
譏 0936 ソシル 人の欠点を見つけて悪口を言う
倦客 0082 ケンキャク 家を離れうみ疲れた人
塵襟 ジンキン 塵にまみれた襟元 自分を指す 
蕭寂 0866 ショウセキ 静かでもの寂しい
四隣 シリン 身の回り 辺り
蓬壷 ホウコ 神仙の境を尋ねる

遠來の渉世 衆縁殊に、寄寓三年 老父を譏る。
閑に書窓に倚り 詩 賦さんと欲し、翻て紙筆を抛ち 我 愚なるを知る。
悲愁の倦客 塵襟冷やかに、永夜の古村 烟月孤なり。
蕭寂 四隣 人語絶え、夢に 伴友を追うて 蓬壷を訪う。

 

 


58−
   暮秋偶成
   上平十一眞韵平起

秋風瑟瑟渡江津,吹入暮窓愁殺人。
郊野葦茅連岸戦,金黄禾稲満田堰B
人生半百方知老,世味辛酸未免貧。
禿筆一枝詩欲賦,推敲獺祭又労神。

愁殺 シュウサツ 殺は助字 愁を強調する文字
葦茅 0857 イ ボウ あしとちがや
戦 0392 セン そよぐ そよそよと動く 
方 1234 ホウ まさに ちょうど今 
禿筆 トクヒツ ちびた筆
推敲 0416 スイコウ 詩文の字句を練ること ☆ 唐賈東の作詩思索の展古に依る
労神 0137 ロウシン 心を苦しめる ☆ 神=心
獺祭 ダツサイ カワウソが獲物を並べる習性が有ることから、参考書を机に広げること

秋風 瑟瑟 江津を渡り、吹いて 暮窓に入り 人を愁殺す。
郊野の葦茅 岸に連り戦ぎ、金黄の禾稲 田に満ちて奄、。
人生 半百 方に老を知り、世味 辛酸 未だ貧を免れず。
禿筆 一枝 詩 賦さんと欲し、推敲 獺祭 又労神。

 

 


59−
  暮秋偶成
   下平一先韵仄起

茅屋深更残燭前,纏身世事感懷牽。
幽寥斜月照情地,飄忽愁雲蔽性天。
千里旅魂飛故国,孤牀痴夢逐芳年。
囘看落托半生跡,喞喞蟲聲猶似憐。

茅屋 0842 ボウ オク 粗末な家 自宅の謙称
纏身 0798 テンシン 身に纏わり付いた
幽寥 0324 ユウリョウ 静かで寂しい
芳年 ホウネン 若かりし頃 血気盛んなとき
痴夢 0683 チム 愚かな夢
☆痴人説夢 言って居る内容がさっぱり解らない
落托 ラクタク ☆ 気が大きいさま 気侭なさま  気が落ちぶれるさま
喞喞 0191 ショクショク 機を織るような連続した小さな音

茅屋 深更 残燭の前、纏身の世事 感懷牽く。
幽寥 斜月 情地を照し、飄忽 愁雲 性天を蔽う。
千里の旅魂 故国に飛び、孤牀の痴夢 芳年を逐う。
囘看す 落托半生の跡、喞喞 蟲聲 ・ 憐むに似たり。

 

 


60−
   游暮秋山寺
   上平十五刪韵平起

吟行溪路入仙寰,石磴千階扶杖攀。
斜照竹林群雀噪,欝葱庭樹暮鴉還。
舞風黄葉埋寒徑,臨壑翠松驕晩山。
佛閣秋深人影絶,疎鐘殷殷出禅關。

溪路 ケイロ 谷川に沿った道
仙寰 センカン 仙人でも住みそうな環境に 
扶杖攀 杖に助けられて、よじ登る
斜照 シャショウ 斜めに差し掛かる太陽 夕日
群雀 グンジヤク 群になっている雀 
欝葱 ウッソウ 木々が重なり繁るさま
暮鴉 ボア 夕刻になり塒にかえる烏
寒徑 カンケイ 人気のない寒々とした道 
殷殷 0550 インイン 轟き渡る音の形容 ☆ 仄用 破音字

吟行 溪路 仙寰に入り、石磴 千階 扶杖攀ず。
斜照 竹林 群雀噪ぎ、欝葱 庭樹 暮鴉還る。
風に舞う黄葉 寒徑を埋め、壑に臨む翠松 晩山に驕る。
佛閣 秋深く 人影絶え、疎鐘 殷殷 禅關より出ず。

 

 


秋之部六十首掲載完了

 

曄歌坤歌偲歌瀛歌三連五七律自由詩笠翁対韻羊角対漢歌漢俳填詞詩余元曲散曲楹聯