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 作者の心の訴えが文字となって、詩詞作品となる。作品は作者を取り巻く周囲の状況や、彼自身が歳を重ねる事による人生観の推移など、それらが微妙に交錯し、更に創作技術の練度も加味して、作品に反映される。

 依って一人の作者が長年に亘って、同じ練度で同じ傾向の作品を叙していたとは考え難い。

 ただ古典にしろ現代作品にしろ、衆目の淘汰を経て、私共の耳目に到るのは、彼等が最盛期に創作した作品であることを、予め知らねばならない。

 編者は個人的にも現代中国の多くの詩人達と、知友の仲であるが、現代中國の作品は、近代の動乱が終熄して、未だ僅かな歳月しか経て居らず、現在は復興の途次である。依って目下の處、詩体詩派に取り上げる時期ではないと思われるので、此処には掲載しなかった。

 必要と有れば、彼等の個人詩集は沢山持ち合わせているので、適宜提出することは可能であるが、衆目の淘汰を経るには、半世紀は要するであろうから、その頃になれば、現在活躍中の諸氏も、詩体詩派の一隅を占めるだろう。

 人はそれぞれに、自己に備わった作風を持ち合わせていて、自分自身の爲に作品を作るのなら、其れで間に合うが、漢詩詞全体を俯瞰しなければ、自分の作品が、全体の中でどの位置を占めるかは、知ることは出来ない。

 更に、漢詩詞創作の指導者としては、自分自身の作品が作れる能力だけでは、その責任を果たせない。

 指導を受ける側の作風は千差万別である。彼等に適宜な指導を為すには、彼等の要求に応じて、あらゆる作風に対応できなければならないのである。

 漢詩詞愛好者は、詩詞集に頼ることが多い。詩詞集には個人の作品を集めた詩詞集もあれば、多人数の作品を趣旨の下に集めた詩詞集もある。

 何れにせよ、詩人の数も莫大に多いし、作品の数も莫大に多い。更に傾向も雑多である。依って此を俯瞰することは容易ではない。

 指導者でも愛好者でも、膨大な数の漢詩詞作品を俯瞰することが、作品理解の上で極めて重要な要件である。

 然し、個人詩集でも、趣旨編輯された詩詞集でも、その数が余りにも膨大で、総てを読むには物理的に難題である。

 編者はその難問を解決する手段として、ただ作品を羅列するだけではなく、作者に依っての名称・形式に依る名称・時代に依る名称・風格に依る名称とを記述し、漢詩詞理解の便宜を図った。

 本稿に依って、漢詩詞愛好者並びに指導者は、漢詩詞の全体像を俯瞰し、より一層の理解に資すれば幸である。なお読み物としても、その要求に充分応えられると思っている。

 なお本稿の編輯はその殆どを漢語書籍に頼ったので、言葉遣いの稚拙さが目立つがご勘弁願いたい。

  平成22年5月6日

          松戸の茅屋にて  中山逍雀 頓首

 

 

概説

☆このTextは「中山逍雀漢詩詞講座 詩詞通史」と併行してお読みになることをお勧めします。

 漢詩詞の起源は一般には詩経と謂われているが、孔子が編纂したと言われる詩経以前に、既に其の原形は有ったという説もある。

 のちテキストの整理,儒教の経典化に伴い,さまざまな解釈が現れ,漢初には魯の申培が伝えた『魯詩』,斉の轅固生が伝えた『斉詩』,燕の韓嬰が伝えた『韓詩』,毛亨の伝えた『毛詩』の4家が存在した。

 『毛詩』の注釈は,古代詩を後世の政治哲学で解釈し,多くの付会の説をなしたものであったが,宋代に入ってこの伝統的な解釈に批判が生まれ,朱熹の『詩集伝』を代表とする新しい解釈がほどこされた。

 また現在出回っているテキストの殆どは、毛亨の伝えたものなので『毛詩』ともいう。

 言葉と唄とは並列の関係であったろうから、声としての唄は相当に古いと言える。ただ文字としての形を取った時期は、詩経が始めと言うことになる。

 一般に詩詞の歴史書によると、詩経に始まり、楚辭を経て、魏晋南北朝、唐金元明清を経て現代に至っている。その長い年月の間には、その時代を代表する詩人と、その作風を依拠する詩人のグループが居る。

 時代に依る名称の場合は、有る時代の一定期間を区切るだけで、作風などを全く問はないので、その期間内の詩人を包括するに過ぎない。

 詩歌は時代を映す鏡でもあり、詩人個人と時代の背景とが相俟って、固有の詩風を作り出す。亦これに同調する詩人が現れ、後日グループとして○○派と称せられる様になる。

 本稿は“讀詩常識 呉丈蜀著”の構成に倣い、中華詩詞壇誌と、在中国詩詞専門書籍に依って肉付けを為した。なお概ね時代の古い順に並べた積もりだが、残念ながら順位を取り違えていることも否めない。

 記載した詩体名称の付け方には、以下の四通り有る。

其一 作者に依っての名称

   蘇李体・陶体・太白体・少陵体・蘇体・元遺山体・李  西涯体・黄遵憲体 など。

其二 形式に依る名称

   騒体・柏粱体 など。

其三 時代に依る名称

   建安体・元嘉体・弘正体・嘉靖体 など。
註:有る時代の一定期間を区切るだけで、作風などを全く問はな いので、その期間内の詩人を包括するに過ぎない。

其四 風格に依る名称
   齋粱体・宮体・江西詩体・公安体・竟陵体・乾隆三大  家体 など。

 なお在中国詩詞専門資料ばかりでは堅苦しいので、WaveSightの記事を適宜差し挟んで、鑑賞書としても読みやすいように編輯した。

 

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