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本文抜粋 50頁から60頁

5−6 巷間の詩

 

 これ迄に例示した詩は真面目な内容の作品ばかりであるが、詩と雖も実社会の中にあっては、硬軟織りまぜて存在しているのが実状である。

 茲に示したのは一例で、巷間には多々有るので、頭痛がしてきたら少しばかり世俗に触れて、頭痛を解消させよう。

 

一物従来六寸長,有時柔軟有時剛。

軟如酔漢東西倒,硬似風僧上下狂。

出牝入陰爲本事,腰州臍下作家郷。

天生二子随身便,曾與佳人闘幾場。

 

  又

温緊香乾口賽蓮,能柔能軟最堪憐。

喜便吐舌開口笑,因時随力就身眠。

内襠県里爲家業,薄草崖邊是故国。

若遇風流清子弟,等閑戦闘不開言。

 

 

5−7 連作 聯章

 

 同一の題で幾首もの作品を作る方法を連作と云う。此の場合一首毎に平韻を用いて韻を換える事が必須の条件である。

 古詩換韻格は平仄互いに用いるが構成的には連作と同一範疇で有って、絶句を用いて古詩換韻格と同じ様な構成にするのが連作である。

 

  冬景漫吟十首録三首 岩田鴬崖

山寺那邊在,林間乾葉推。

行尋塵鹿跡,雙屐踏雲來。

 

  又

寒月空林上,寺門聞吼鯨。

山幽人寂寂,静夜冷詩情。

 

  又

霜威何粛殺,筧水暮蕭蕭。

樹頂懸氷魄,山容??高。

 

? 連作の場合は一首毎に「又」又は「其一」などの区切り が表示されるが、聯章の場合は全部続けて書かれて居る。

 

 

5−8 集句

 

 古来多くの詩作品がある。詩句の一部を詩作に取り入れる事は多く行われる手法である。多くはその一部を借用し、典古などと言われる。然し集句は一句をそっくり戴いてしまうのである。其れも4句或いは8句と、詩作全部の句を頂き物ですませるという、何とも都合の良い手法である。

 然し、他人様の詩句を戴くにはそれなりの難しさがある。韵が適合し平仄が適合し、内容に相応しい詩句を探し出す。全部他人様のお下がりで、自分のフアッションに合わせるのは、思ったより難しい。

 一般に作品は知っていても、語句迄は記憶していない。まして韵や平仄迄は難しい。記憶だけが頼りである。

 集句の詩法を知らぬ者から、剽窃の誹りを受けぬ爲に「集句」の断り書きを入れる。抽出先を書く必要はないが、読者の便宜を図って書き入れた。

 最初から作るのは難しいが、一句入れ替えは簡単なので、編者の作品に筆を入れることを奨める。

 

  客中聴蝉 集句 中山逍雀

江山留勝跡,   孟浩然 與諸子登?山

天畔獨潸然。   劉張卿 新年作

白髪悲花落,   岑参  寄左省杜拾遺

臨風聴暮蝉。   王維  閑居贈裴秀才迪

 

   回故郷 集句 中山逍雀

葡萄美酒夜光杯, 王翰  涼州曲

少小離家老大回。 賀知章 回郷偶書

白狼河北音書断, 沈全期 獨不見

黄竹歌声動地哀。 李商隠 揺池

長風連日作大浪, 元結  石魚湖上酔歌

落葉添薪仰古槐。 元槙  遺悲懐

千載琵琶作胡語, 杜甫  詠懐古蹟

暫憐團扇共徘徊。 王昌齢 青信怨

 

   回故郷 集句 中山逍雀

   被免職失去地位回故郷,故郷已経我返回的土地没有

空山不見人, 王維  鹿柴

積雪浮雲端。 祖詠  終南望積雪

自顧無長策, 王維  酬張少府

馳車登古原。 李商隠 登楽遊原

明朝有封事, 杜甫  春宿左省

離杯惜共傳。 司空曙 雲陽館與韓国紳宿別

飛鳥没何處? 劉張卿 餞別王十一南遊

虚里上孤煙。 王維  網川閑居裴秀才迪

落葉他郷樹, 馬載  潮上秋居

断雁警愁眠。 杜牧  旅宿

 

  秋夜集句 梁橋

西風吹雨滴寒更,  秦韜玉

 西風雨を吹いて寒更に滴り、

宋玉含凄夢亦驚。  許渾

 宋玉凄を含んで夢亦驚く。

楊柳敗梢飛葉響,  譚用

 楊柳の敗梢 葉飛びて響き、

千家砧杵共秋聲。  銭起

 千家の砧杵秋聲を共にす。 

 

 

5−9 回文

 

5−9-1

 

 一般の文章でも行われる遊戯の一種で、文頭から読んでも文末から読んでも、どちらから読んでも文章になる作品を云う。詩の場合は平仄や韻が関係するので其れ丈煩わしい。

 

  回文 高青邱

風簾一燭對残花,薄霧寒篭翠袖紗。

 風簾一燭残花に対し、薄霧寒を篭む翆袖の紗。

空院別愁驚破夢,東欄井樹夜啼鴉。

 空院の別愁夢を破りて驚き、東欄の井樹夜鴉啼く。

 

  倒讀

鴉啼夜樹井欄東,夢破驚愁別院空。

紗袖翠篭寒霧薄,花残對燭一簾風。

 

  題織錦図 蘇東坡

春晩落花餘碧艸,夜涼低月半枯桐。

 春晩の落花碧草を餘し、夜涼月低る半枯の桐。

人随遠雁邊城暮,雨映疎簾綉閣空。

 人は遠雁に従う邊城の暮れ、雨は疎簾に映じて綉閣空し。

 

  倒讀

空閣綉簾疎映雨,暮城邊雁遠随人。

桐枯半月低涼夜,艸碧餘花落晩春。

 

  題画回文 森春涛

山外門沿舊石磯,去雲閑趁暮舟歸。

 山外門は沿う旧石磯、去雲閑かに暮舟を趁うて帰る。

環渓隔樹晴煙斷,寒葉帯秋如雨飛。

 渓を環り樹を隔て晴煙り断へ、寒葉秋を帯て雨の如く飛ぶ。

 

  倒讀

飛雨如秋帯葉寒,斷煙晴樹隔渓環。

歸舟暮趁閑雲去,磯石舊沿門外山。

 

 この様な文字の並びに成っているが、これには次のような言葉の配置が考えられる。

 先ず一例として七言絶句正格平起式を擧げれば、

起句△○▲●●○☆,承句▲●△○▲●☆。

転句▲●△○○●●,結句△○▲●●○☆。

 

 これを逆に辿ってみると承句と転句の一文字目を「平韻」にする事が要求され、これを含めて書き換えると

 

起句☆○●●●○☆合句 承句●●○○▲●☆転句

 

転句☆●△○○●●承句 合句☆○▲●●○☆起句

の様な配置となる。

 扨てこの回文を作るにはどうするか、さし当たって次の二つの方法が考えられる。

 その一つとして、お手本の作品を用意し、使用している文字を名詞形容詞動詞助動詞副詞数詞などに分別して、其の各々に別の言葉を当て填めていけば、再構成という形で回文は成立する。

 もう一つの方法として、上から読んでも下から読んでも文として成り立つという事は、例えば、A B C D C B A の様な詞の構成を考えて、上から読んでこれが文として成り立つならば、当然下から読んでも文として成り立つ。

 

 例えば題織錦図 蘇東坡 春晩落花餘碧艸を例に取れば、

A  B  C  D  C  B  A

春  晩  落  花  餘  碧  艸

名詞 名詞 動詞 名詞 動詞 名詞 名詞

となり、此処に提示した幾種かの回文にも、この様な折り返しの構文となったものがある。

 

  新緑試筆 中山逍雀

躬老春園寂,幽窗與舊居。

風塵抛筆硯,宿志未題詩。

 

  倒讀

詩題未志宿,硯筆抛塵風。居舊與窗幽,寂園春老躬。

 

  新春憶家郷 中山逍雀

傷春爲詞恨堪憐,桟古横淵野架煙。

章有涙涙空看我,郷家惜惜莫經年。

 

  倒讀

年經莫惜惜家郷,我看空涙涙有章。

煙架野淵横古桟,憐堪恨詞爲春傷。

 

   廬山途上之作 中山逍雀

懐留筆達苦無踪,廟塔晴嵐緑樹叢。

堆起雲峯雲靉靉,接來霧澗霧濛濛。

衣沾草露才花白,杖曳泉飛已葉紅。

誰寄?嚢詩骨健?危岩磴桟徑重重。

 

  倒讀

重重徑桟磴岩危,健骨詩嚢?寄誰?

紅葉已飛泉曳杖,白花才露草沾衣。

濛濛霧澗霧来接,靉靉雲峯雲起堆。

叢樹緑嵐晴塔廟,踪無苦達筆留懐。

 

   長江游草 中山逍雀

人駭渓聲烈 青青露滴枝。

神威萬山勝,連岳壑巌欹。

塵俗千邑旅,遊程雨道危。

眞情史紀筆,夢裏覇題詩。

頻唱高心素,潭前月映碑。

 

  倒讀

碑映月前潭,素心高唱頻。

詩題覇裏夢,筆紀史情眞。

危道雨程遊,旅邑千俗塵。

欹巖壑岳連,勝山萬威神。

枝滴露青青,烈聲渓駭人。

 

 上記“長江游草”の平仄配置と韵の配置を表示すると、逆にした場合の経緯が読み取れる。

☆●○○●,○○●●☆。

人駭渓聲烈 青青露滴枝

 

☆○●○●,○●●○☆。

神威萬山勝,連岳壑巌欹

 

☆●○○●,○○●●☆。

塵俗千邑旅,遊程雨道危

 

☆○●○●,●●●○☆。

眞情史紀筆,夢裏覇題詩

 

☆●○○●,○○●●☆。

頻唱高心素,潭前月映碑。

 

 

5−9-2

 

 ここに面白い読み方をする回文が有るので紹介しよう、これは上から読んでも下から読んでも同じという類ではない。

 グルグル廻ると言う意味で、ただ同じ方向に廻るとは限らない。右に廻ったり左に廻ったり。

 此十字四季回文詩、是亡友葉秀山老人遺作、極為巧妙、前年葉丈八、今将此詩公之於世、以作葉丈之百年祭。 上海張聯芳

 

 

幽雲白雁過南樓,

雁過南樓一色秋。

秋色一樓南過雁,

樓南過雁白雲幽。

 

 

春游遇雨喜初晴,

雨喜初晴景色新。

新色景晴初喜雨,

晴初喜雨遇遊春。

 

 

香蓮碧水動風涼,

水動風涼夏日長。

長日夏涼風動水,

涼風動水碧蓮香。

 

 

紅炉炭火禦寒風,

火禦寒風避雪冬。

冬雪避風寒禦火,

風寒禦火炭爐紅。

 

 

5−10 連環體

 

 連環体とは、幾首かの詩が環の様に連なり、最終の句が最初の句に続く。例示の詩では最初の句は「延々一路訪京都」で、最終の句は「延々一路去京都」と成って居る。

 

  游京団体観光旅四首 野間止水 録黒潮集

延々一路訪京都,修復金堂積歳摸。

篤信同朋倶拝賽,真宗王国儼雄図

 

  又

真宗王国儼雄図,如此規模忘老躯。

歌劇燦然如夢裏,提携有馬浴湯倶

 

  又

提携有馬浴湯倶,六甲籃車上下途。

四望雲晴風景好,荘厳仏塔聳天衢

 

  又

荘厳佛塔聳天衢,國寶鷺城堪酌觚。

歓喜旅情交逼腮,延々一路去京都

【註】上記の作品は“日本漢詩”作品で、中華詩詞壇に通用するとは限らない。

 

  陽春相會之圖 中山逍雀

莽莽兩年期,紅紅僅綻時。

駅頭呑下衆,挂票各何之

 

  又

挂票各何之,低頭獨有期。

仰天憐宿世,含恨湿燕脂

 

  又

含恨湿燕脂,駅頭燕子飛。

傷春空看鏡,鶴首亂羅衣

 

  又

鶴首亂羅衣,紛紛何處之。

尋芳禅院下,藤架紫成絲

 

  又

藤架紫成絲,毫端墨醒時。

綿綿孤雁叫,莽莽兩年期

 

 

5−11 轆轤體

 

 この詩体は、五言若しくは七言律詩五首一組として成り立つ詩形である。説明はややこしいので現物を示して見よう。

 一行に収まらないと実感がつかめないので、五言にして表示した。

 先ず五言若しくは七言の律詩一首を作り、最初の作品の第一句□□□□☆の句をそのまま第二首目の第二句に用い、同様に第三首目の第四句に用い、第四首目の第六句に用い、第五首目の第八句に用いる。

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