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本文抜粋50頁から60頁

 ○●☆。○●☆。 ○△★。○△★。

の様に韵を重ねて用いる詩法を謂う。

 この例では韵と共に句も重ねているが、韵だけを重ねて、句は對仗にしている作品も見掛ける。

 

2−8 對偶

 

 詩の對仗と詞の對偶とは多少異なる。詞も詩も文字や句が對する事は殆ど同じであるが、幾つかの相違がある。詩ではその決まりは厳格であるが、詞ではそれ程に厳格ではない。平仄相反ばかりとは限らない。平仄相同でも文法構成が同じなら、對偶となり得る。

【附注】對仗の項は概ね60項目程有るので、細説は別冊に譲り、本稿は概要とする。

 

 對句とは、有る対照に対しての、こちら側の形体を謂い、對仗とは、対象句と対応句の、両方を含めた場合の言い方である。

 そして對句は、漢字文化に限らず世界のあらゆる文化に存在する。欧米文・日本語文・漢字文など眼に触れることの多い文面に時折見受けられる文体である。

 漢文学に於いて對仗は重要な要素を占め、まして漢詩の中でも律詩は對仗が必須の条件で、他の詩形に於いても屡々見受けられる。

 

 對仗とは如何なものか、「詩」に限らず對仗は文章法の一つとして長い歴史を持ち、広範囲に用いられて居るので、これ等の類例を擧げながら「詩」に於ける對仗に到ってみよう。

 

 市中に於いて時折見掛けられ、田舎の居酒屋の店先には「黄酒童鶏風味,白頭老媼生涯。」と書かれ、田舎の旅の宿には「對燭三更夢,辞家萬里人。」と書かれ、煙草屋の店先には「幽蘭君主徳,香草美人心。」と書かれ、呉服屋には「温暖如人意,纏綿動客心。」と書かれ、理髪店の柱には「到来盡是弾冠客,此拠應無掻首人。」とある。

 

 この類例は對仗の中でも、楹聯と云われる作品で、居酒屋 旅館 煙草屋 呉服屋 床屋 それぞれの店に適う適切な内容の對仗で、商売という甚だ功利的 現実的な仕事をこの様に文学的に表現すると、一種の余裕さえも感じられる。

 

 對仗の歴史は古く、論語は孔子と其の弟子達の問答の、記憶の記録で、孔子の門人の門人、則ち孫弟子達の時代になって、魯の國で記憶に基づいて編集された孔子の言行録である。

 其れ迄の間、弟子達が各自手控えとして書き留めて居たと考えられるが、其の手控えまでの過程は記憶に依るもの、口承に依るもの等、保存の形態は色々考えられる。

 

 記憶や口承に便利にする為には、其の文章が特殊な形態を取るであろう事は容易に想像でき、対偶句法も其の形態の一つとして考えれば、論語に対偶法の多い事も当然の事として理解される。

 論語の中の対偶表現は二百五十例有り、論語は約五百章から成り立って居るから、二章に一章は対偶表現がある。

 これ等の事は対偶表現が中国の文章に於いて、如何に根強いかと言う一つの証明でもある。

 

 記憶したり口誦したりするには単句よりは對仗である方が便利であり、對仗を組成する両句が互いに支え合って記憶するのに便利な構文法である。

 語録の資料が記憶や口誦の伝達による為に、其れに適した表現形態に定着して来たので有って、対偶表現も其の一環と考えるべきで有る。

 詩経の中にも屡々見受けられ、詩経の如き単純素朴な畳詠体の詩は、各章の文字の変化が少ないから、これを記憶するのに便利である。

 

 筆記の術を知らない古代の庶民に取って、甚だ記憶し易い形であって、今日に民謡などにそうした表現が多い事も、同じ理由からであろう。

 其の点は論語の場合でも言える事で、「富與貴」の章の如く比較的長い文章でも、繰り返し表現する故に口承に便利であったと考えられる。

 

 漢詩の對仗に就いて述べると、律詩は對仗を必須の条件として居る事など、漢詩のあらゆる所に對仗は用いられ、漢詩と對仗は切り放せない関係にあると言える。

 

【解説其一】

 漢詩の對仗に就いで其の条件を述べると、

1−詩の對仗は互いに平仄を異にする。

2−文字の働きを互いに同じにする。

3−文字の種別を互いに同じにする。

4−對の對がある。

5−一文字一文字が対して居ても、一句と一句が対して居な  ければ、對仗とはならない。

6−文字の數を互いに同じにする。

  填詞の場合は文字数の異なる對偶がある。

 

【解説其二】

 構成例を述べると

1−対句の一形式として互文がある。

2−虚字に対して実字を、実字に対して虚字を對させる方   法がある。この方法は、「可」とする評価と、「不可」  とする評価と、「次善」とする評価がある。

3−同じ文字を重ねる用法を連珠對、或いは畳字對がある。

4−文字の読みは聲(子音)と韵(母音)で構成されるが、  聲の同じ文字で対応する対がある。

5−語彙の上では対仗を為さないが、双方とも、双声と謂   う理由で成り立つ句法がある。

6−畳韵を用いる對仗がある。

7−天文對・時令對・地理對・地名對・宮室對・器物對など、  名称による對の分類がある。

8−視聴對など、見聞きに係わる對仗がある。

9−方位とは東西南北上下遠近などを対照とする対がある。

10−出句の数詞に対して対を為す對法がある。

11−目に見える事柄を対象にした對仗がある。

12−目に見えない事柄を対象とした對仗がある。

13−字對が複数続いている聯綿字對がある。

14−同じ文字を重ねて用いる連珠對或いは畳字對がある。

15−聯綿対がある。

16−畳韵對がある。

17−疑問句で構成される對仗がある。

18−質問と応答で構成される對仗がある。

19−句の中で構成される對仗がある。

20−隔句對又称扇對がある。

21−廻文對という特異な構成の對仗がある。

 

【解説其三】

 對仗の構成概略

 対句の用い方として、大きく分けて三通りの方法がある。行間に於いて互いに対とする方法と、句中対を並列して対 句とする方法と、両者の組み合わせである。

 例示の方法は 出句と落句の間で有るが、章と章の間でも、その構成理念 は同じである。

 

 

▲● 對

△○

 

 

△○對

▲●

 

 

○●●  對

●○◎

 行間で互に対句とする。

 

 

 

  ▲● 對 △○   ○●●  對

●○◎

句中對と行間の對の

組み合わせ

 
  △○ 對 ▲●  

 

 

▲● 對 △○ 對 ○●● 句中對と句中對の

 

  組み合わせ

△○ 對 ▲● 對 ●○◎

 

 

【解説其四】

 填詞に用いられる対偶

1−長短句相對とは同じ文字数でない句の對を云う。

2−両韵對とは出句の末字と対句(落句)の末字が同一の韵  部である對法を謂う。

3−四句對亦の名を連壁對と称し、四句総てが對する。

4−鼎足對亦の名を三句對或は三槍救尾對と、或いは用三句  對とも称し、曲に使用例がある。

 

 

 

第三章 叙事法

      

叙事法の一覧

01-諧謔 02-論詩 03-詠物
04-紅匳體 05-詠史 06-抒情
07-集句 08-實景虚景 09-客観視
10-借物写情 11-詠題意 12-寄思題
13-問答 14-評林體 15-画讃
16-題画 17-嵌字格 18-賦
19-比 20-興 21-野馬臺
22-叙事連作 23-景物顕示 24-起承轉合
25-柏梁體 26-余興  

 

【附注】以下に掲載した著者の作品は、総て中華詩詞壇紙誌に掲載された作品である。

 

 作品を創るという行為は、訴えたいという衝動から始まる。訴えたいという衝動が無ければ、作詩そのものが成り立たない!

 さて訴えたいという衝動に駆られても、それは1000人1000様で有る。これに逐一対応していては、埒があかない。因って予め告訴意図を整理し、二十余りの表現要件に分別した。

 

 作品を作ると云う行為は、樽に酒を仕込む事に似ている。樽は定型に当たり、叙事法は仕込む酒に似ている。清酒にするか、焼酎にするか?ワインか?仕込みの手法がある。即ち句法詩法である。

 以下はそれぞれの範例である。

【附注】詩(広義の)には漢詩も填詞も楹聯も賦も曲も有るのだが、愛好者の殆どは漢詩なので、此処では範例として漢詩を多く採用した。勿論、填詞や楹聯は拙著のテキストも有るのだから、読者諸賢は、時宜に応じて色々と試みて欲しい。

 

 

 

3−01-諧謔

 

 冗談やおどけ、自嘲やユーモアを題材とした作品を言うが、軽い作品ばかりとは限らない。冗談とは言い切れない作品も多々ある。項目の都合で、風刺の類もこの範疇に含める場合もある。

 

 自分の意思が確固としていて、迎合しないのなら、日常生活で一番多く心を揺り動かす事柄は、自嘲や諷刺である。朝起きれば已に諷刺や自嘲は辺り一面に転がっている。

 

 新聞を開けば、一言謂いたいことが紙面に溢れている。我々を取り巻く総てに自嘲と諷刺は充ちているのである。此こそが、この社会に生きている証でもある。

 一言謂いたい!この要望に対応すべく、其れに相応しい表現法に紙面を多く割いた。

 

  探梅 廓頻伽

何須浅水見横斜,冷蕊幽香自一家。

渾似野夫疎懶性,一枝臥地更開花。

 

【附注】以下の作品は総て著者の作品である。

  井底之蛙

天青水K占清涼,春夏秋冬報太陽。

我與青蛙何事異,多年満意僅輝光。

 

 

  老夫之不安

  欺騙老人的住宅修復欺詐

(2005年7月20日)

老夫惑巧言,倒壊未得安。

爲修繕費萬銭,爲欺詐失萬銭。

目前黄泉,余生幾年。

百痾不安,嚢無銭。

老駝背,何処由。

百痾老骨痩,病床医生手。

遺留借款老躯枯,棄置不顧幾歳月,家屋無事保堅構。

 

 

  残蝉

哀惜残蝉識素秋,茅亭誰人恣優游。

門無車馬握團扇,黄昏枝上慌亂鳴。

 

【解説】門無車馬の句は屡々目にするが、日本での解釈は門無車馬は、世間から忘れられて閑古鳥が啼くことを謂う。是までは日本でも中国でも同じだが、中國での門無車馬は、その一方で目的の達成を謂っているとの解釈もある。当人は、世間から忘れて貰わなければ困る人なのである。だから団扇を持ち出して、平穏に浸っているのである。

 

 

  偶成

應愚失覇俗塵侵,歴史歪曲未有尋。

成守財奴消歳月,暖衣飽食売郷心。

 

 

  余生得閑

小手千金笑,双親未得安。

桜花迷處所,意気入心肝。

有志閑読書,偸時共凭欄。

沈心千畳閣,不慮四隣欒。

免職無人識,従心談弱冠。

余生天地濶,莫道事時難。

【注】弱冠:礼記;二十を弱と云いて冠す。

   従心:論語;七十而従心所欲不踰矩。

 

【解説】この作品の意図は、免職無人識に有る。第2句の双親未得安、ご両親の心配は的中した。自分の事だけに生きていると、遂にこの様になると!こういう人が實に多い。儂族や濡れ落ち葉・・・と謂われる人が是に当たる。

 日日の行動はそれぞれの現れ!と言うが、自己顕示欲の強い人は、そうしないと誰にも認めて貰えないから!である。

 

 

  口占

半生黄梁夢,雄心年少時。

頭上撒?子,歳歳成功遅。

 

【注】頭上撒?子:頭に虱を撒いて酷い目に遭う;余計な事をして酷い目に遭う「歇後語」

 

【解説】余計なことばかりしていて、酷い目にあってばかりで、なかなかに、功績が上がらない。著者の生き方そのものである。

 

 

  口占

五尺青雲戴星耕,當年自識破風筝。

蓬頭未棄功名念,?起脚來望里程。

 

【注】破風筝;破れ凧;さっぱり揚がらない。

  ?起脚來;背伸びをして。

 

【日語】五尺の青雲、星を戴きて耕し,當年自から識る破風筝。

蓬頭未だ棄ず功名の念を,?起脚來里程を望まん。

 

 

  秋日自遣

園林柿熟近霜天,萬樹丹楓烱欲燃。

刈稲収蕎秋圃裏,萍枯水落野江邊。

按詩兀坐寒窓下,撫景修行乱菊前。

終日偸閑君勿笑,個中清趣不須銭。

 

 

  坤歌二十七首

 

【解説】坤歌とは時事諧謔を賦すための定型である。文字面に何が書いてあっても、時事諧謔を前提に読み取ることが肝要である。創るときも、時事諧謔なら坤歌を用いる。

 

処女路、局勢変化、廉売路。

 

【注】処女路;バージンロード  廉売路;バーゲンロード

 

幾年経?糾纏不休、双軛牛。

 

【日語】幾年経たか?糾纏不休にして、双軛牛。

 

老爺婆、腰酸肩酸、上病院。

 

【日語】爺婆は腰肩痛くて医者通い

 

横排坐、説話手機、互遠處。

 

【注】手機是「携帯電話」

【意訳】並んで座っているのに、隣の人と話さず、携帯電話で遠くの人と話している。

 

退職后。重新知道,妻子愛。

 

【意訳】退職后、改めて識る妻の愛

 

国運昌。狭小院子,一枝香。

 

【日語】国運昌んに。狭小院子,一枝の香。

 

在鳥籠,不知外界。我自由!

 

【日語】鳥籠に在て,外界を知不に。我は自由!

 

青年期。唯一友人,電脳機。

 

【意訳】青年の、たった一人の友人,夫れはパソコン。

 

百忙處。抛棄辛苦,后巷路。

 

【日語】百忙の處。辛苦を抛棄る,后巷路。

 

故郷路。抛酒熱泪,陋巷宿。

 

【日語】故郷の路。酒を抛て泪は熱し,陋巷の宿に。

 

探秘密。老妻臭覚,如狗鼻。

 

【意訳】秘密を捜す。女房の臭覚,犬の鼻。

 

不説話。象是癌瘤,家族下。

 

【意訳】謂えないけれど。是は癌ですね,ご家族の方!

 

古人径。何言酔狂,天下興。

 

【日語】古人の径。何を言うの酔狂に,天下の興。

 

百分率。小利大損,貧心疾。

 

【意訳】割引に 欺されやすい 貧乏性

 

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