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漢詩創作 句意配置
 何の道にも、これを知れば簡単に確実に出来る方法がある。
 詩歌にもその方法はある。これを仮に奥義と名付けよう。 
 作品の最後の詰めは、作詩者の人格に帰着するが、其れはあくまで骨格で、組立を誤れば骨格そのものをダメにして仕舞う。

 先ず起句から始めよう。即ち題意を起こす。
 承句とは、起句の意を受けて、少し広がりを持たせる。あくまでも起句の延長線上にある。
 転句とは、起句承句と少し対照的な立場を設けて、視点に多面性を持たせる。
 結句とは、結びの句で有って、承句の意向と転句の意向を併せ持った句意とする。
 これまでは何処の本にも書いてあることで、奥義でも何でもない。
 これから先が奥義である。
 承句と転句は繋がっていてはいけない。これを守らぬと、ダラダラとした感じで、冷めたお茶の様になってしまう。転句と結句の方が転句と承句の関係よりも近い関係にある。
 結句の結び方にも奥義がある。即ち漢詩における「余白」の問題である。
   
 これは結句の構造である。作者の感情は「情」であり、虚句、即ち形のない心の思いである。
 作者の情にピッタリと張り付かないで、少し手前で待機させて、言い足りない部分を作る。これが漢詩における「余白」である。余白の無い詩は、読者の共感を封じ込めて仕舞う。
 結句を虚句にした場合、同じ「情」と情であるから、付かず離れずの関係を作ることはとても難しい。結句を実句にすれば、離れ過ぎない事さえ注意すれば、実と虚であるから、張り付いて仕舞うことはないので、失敗無く纏めることが出来る。両者を懸案した方法で、虚句を以て実景を想像させ、想像された実景によって作者の情を表現する方法。
 以上の要点を纏めると
@ 承句と転句は繋げない。
A 転句と結句の方が転句と承句よりも近い関係。
B 転句を実句にした場合は作者の情に近づける。
C 転句を虚句にした場合は作者の情に張り付かないようにして、余白の多い少ないを考慮する。
D 虚句を以て実景を想像させ、想像された実景に依って作者の情を表す。

 絶句に限らず律詩や古詩、詞に於いても此の法則は適応される。
 作品の鑑賞をする場合も、此の尺度は大いに鑑賞者の手助けとなる。

律詩の句意配置
 律詩の構成要素は、呼び方は色々あるが二句一単位で、首聯・頷聯・頸聯・結聯の四聯より成り立ち、句の構成要素は絶句と殆ど変わりない。
 絶句が一句毎に起承転結が割り振られているが、律詩は二句毎に起承転結が割り当てられている。ただ律詩は頷聯・頸聯に対句を含むと言うことが絶句と異なる要素である。
 此処にも此を守れば比較的整った詩が大過無く出来ると言う、奥の手がある。    

 二つの対句は同じ形式でない方がよい。文法構造が同じならば、殆どの場合対句と成るので研究を要す。対句の巧拙は余白の次に重要な用件である。
 対句の呼び名として頷聯を「前」頸聯を「後」と分けて、此に実句か虚句かを定義付け、全実・全虚・前実後虚・前虚後実の4種類の組み合わせ方が言われている。
 FG句の関係は、虚虚または実実の組み合わせがあるが、虚虚の場合は情が強くなり易く、余白が無くならないように注意を要す。実実は離れすぎに注意を要す。

A @からA句へ、
B @A句の意を受けてBC句へ。
C @句の意を受けてDE句へ。
D FG句は結びの句である。結聯は殊に重要で、絶句の講で述べた余白に注意を要す。
E 全実にすると武骨な感じを受け、全虚にすると脆弱な感じを受ける。
F 結聯との関係から言えば、頸聯と結聯を虚虚または実実としない方が纏めやすい。
G FG句の関係は、Fを虚句としてGを実句とする組み合わせが、簡便な方法。

十六字令 詞
 詩と詞は形式も違うが本質的な違いとして作品のニュアンスが違う。何処がどう違うのかと問はれても、一言で言い得る言葉を持っていない。
 ただ通常「詩」にしている題材を詞にする事は不適当なようだ。
 一般に一番文字数の少ない形式は十六字令と言われている。文字数が少ない割には作りにくい形式である。
 これを七言詩の文字が欠けたと考えると、比較的簡単に対処することが出来る。
                                
  □□□□□□眠。月影穿窓白玉銭。
  □□□□無人弄,□□移過枕函邊。

 いったん七言詩を作り、不要な部分を消す。これで出来上がる。ただ残った部分を読んでみて都合の悪くならないように修正を加える。朱文字の所は韻で有る。

詞の簡易な作り方
 詞は文字数の少ない形式からとても文字数の多い形式まであって、文字数の少ない形式は詩よりも作り方が簡単で、挨拶状などに用いるには最適である。
 どの様な作品があるかを示すので参考にされたい。 これらに絵を添えると一層趣を増す。

数畝田 一葉船 随分求詩別有天 風騒翰墨縁
少休肩 少逃銭 酌酒思君名月前 開信吾未眠
 中国の詩友に送った挨拶。(長相思)

千古意 百家編 迎賓酌酒絶塵縁 風騒同志会 遣興評詩 養拙休肩 (桂殿秋)
 中国の詩友が拙宅に来て酒食を共にす。後日葉書を出す。

応皺皺 亦酸酸 殊郷厚恵透心胆 忽懐少年夢 偕老夫妻 矍鑠金丹
 梅干しを貰ったお礼。

游駭浪 聴鴎声 今年大海釣長鯨 先餐同門友 衆均耽談 君独為名
 釣りの好きな詩友に暑中見舞い

千里客 多年情 開封挙燭到三更 鴻書興何盡 遥憶詩星 不問離程
 中国の詩友に手紙を貰った。そのお礼。

天似竈 暑如蒸 工人拭汗負荷登 緑酒活萎骨 三酌通神 百觴成鵬
 ビールを貰ったお礼。

林下影 路傍花 匆々挿?室声譁 却愁秋風至 褪興無詩 委地沈沙
 喧伝してくれたお礼の気持ちと、恐縮している気持ち

天若拭 暑如? 嚼氷揺扇仰蒼穹 両三快心句 千古幽襟 十里清風
 暑中見舞い。

坐憂鬱 聴遥雷 轟轟白雨洗浮挨 苦吟多年業 題句通神 執?易裁
 暑中見舞い。

望海潮 想故郷
  籬邊蟲唱,満天星影,映睛一水清漣。竹馬依然,故園桑海,滔滔歳月成篇。
懐舊對粗箋。喜答酬新詠,底事哀憐。難得閑時,偶拈妙語意廻旋。
  青衿日夜加鞭。忖疎才學拙,習授無銭。何厭襤褸?何図志業?難忘十六離筵。
案几一燈前。唯夜思君切,坐恨郷天。禿筆難成麗句,萬里倚先賢。
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