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韵と平仄TopPage

 詩や詞は本来詠う事を前提にしています。この頃は、詞は詠うけれど詩は詠うよりは朗読や書き物の方が一般的なようです。何れにせよ声に出す事は有るのです。それなら読み易くなければならないでしょう。「東京特許許可局」みたいに成ったら、内容の善し悪し以前に、読めなかったらどうしようもありません。

 韵と聲と平仄と言いますが、韵は中国語で、日本語なら「母音」の事です。聲は中国語で、日本語なら「子音」の事です。平仄とは、アクセントの事です。

 中国語には声調と言って基本に四種類のアクセントが有って、一般には四聲と言い、第一声調・第二声調・第三声調・第四声調と言います。其れが又各々の母音に有るのですから、全部を数えたらやたらに多いのです。そして更に厄介な事は、アクセントによって言葉の意味が違うのです。読みにくいからと言って、アクセントを換えて読んだら違う言葉になってしまった。これではどうしようもありません。ですから予め読み易い、詠いやすいアクセントの配列を決めておくのです。其れも余り厳重ではない、大雑把なものなのです。

 中国語は四声と言って、四っのアクセントがあります。これを二っに分けるのです。第一声調と第二声調を「平聲」とし、第三声調と第四声調を「仄聲」とするのです。これが世に言う平仄配置図と言う、ものなのです。これも随分と融通が利いていて、大凡六割方守ればマアマアと言う所でしょうか。これで随分と気が楽に成ったでしょう。

 韵とは母音を言います。日本語は母音の数が少なくて、アイウエオのたったの五個しか有りません。母音と子音の組み合わせアイウエオガギグゲゴパピプペポ、全部数えてもそんなに数は多くないでしょう。そしてアクセントによる区別はないのです。それに比べて中国語は、母音の数が多く、古典韻では106韵有ると言われています。子音との組み合わせの数は更に多くなります。其れが更にアクセントによる区別が有るのです。

註:現在は、現代韻と言う分類があります。数は半分ほどになりましたが、分類の方法が違うので、詳細は講が進んでからの話としましょう。
註:平水韻とは、むかしむかし、平水と言う所に住んでいた学者が纏めた韻書だから、平水韻と言うそうです。

 日本語でも、同じ韵が句の末に有る童謡などは沢山あります。何となく聞きやすいですね!。句の末に同じ母音を揃える事を「押韻」と言うのです。

 中国全土で同じ平仄と同じ韵が合理的に通用するか?と言うとそんな事はありません。中国は多民族国家ですから、言葉もマチマチなのです。北と南で随分と違う事は皆さんご承知でしょう。ですから、中国全土で合理的に通用する平仄や韵は無いのです。中国と言う国家は文化も政治の一貫ですから古典韵は皇帝の権威に依って一本化され平水韵が長く通用し現在にも至っています。その後現代韵と言う編集が現れました。全国統一の言語文化が政府の施策でしょうから、この現代韻も広まりつつあります。然し如何に現代韻と雖も全土で齟齬無く適合する事はないのです。全土に適合していないと言う面から見れば、古典韻も現代韻もたいした違いは有りません。

 中国人は自国語だから、平仄や韻は日常の事だ!と謂う人が居ますが、これは間違いです。平仄や韻書を編集した地域と同じ発音で話している所は合致していますが、上海や広東や架橋や福建など、違和感において、日本人の感覚とさほどの隔たりは有りません。

 以上の話を読んで頂ければ、詩歌は古典韵で作るべきだ!現代韻で創ると口語体に成ってしまう!!と言う話が有りますが、如何に見当はずれかがお分かりかと思います。

 押韻とは、句末の母音を揃える事を言います。揃えるのですから最低二カ所以上と言う事となります。

 上記は、耳が聞こえずに目だけで創る日本人の立場としての記事ですが、中国国内の現状については、又事情が違います。編者としては、現代韻を使う事を薦めます。

《佩文詩韵》應該休息了
 日本では多くの漢詩創作者が《佩文詩韵》を用いているが、中國では既に現代韻へと移行しつつあり、《佩文詩韵》は過去の文化と成りつつある。この事について書かれた小論が、1995年8月19日《中國楹聯報》に掲載されていたので紹介しよう。

《佩文詩韵》應該休息了

 現在、我が国の詩詞楹聯界では、《佩文詩韵》の四声平仄を主張する者と、現代漢語の四声平仄を主張する者とが居る。
 我が国の国土は広く人口も多い。様々な歴史に依る漢語方言の方言区は以下の如くである。

1−北方方言(官話区)
 東北三省・河北省・河南省・山東省・山西省・陜西省・甘粛省・安徽省・四川省・江西省・湖北省・雲南省・貴州省、などと、廣西北部・江蘇北部・南京・鎮江、などの地域で、使用人口は漢族総人口の75%以上である。そして北京話を代表とする。

2−呉wu2方言
 浙江省と江蘇省南部で、使用人口は漢族総人口の9%である。上海話をその代表とする。

3−?min3方言(○=門+虫)
 福建省・台湾省・海南省・広東省の潮州・汕頭地区で、使用人口は漢族総人口の4%である。福州話と夏門話をその代表とする。

4−粤yue4方言
 広東の大部分・廣西南部で、使用人口は漢族総人口の5%である。廣州話を代表とする。

5−客家方言
 廣東東部・南部・福建西部・江西南部・廣西東南部で、使用人口は漢族総人口の4%である。廣東梅州話代表とする。

6−
 北方の方言の中には、未だ少しの方言区がある。晋方言・鄂方言・湘方言・?min3方言(○=門+虫)などである。

7−
 外国の幾千万の華僑は粤方言・?方言・客家方言とをそれぞれに使っている。

 時代は、随から唐清に至り、幾人もの言語学者が所説を立て、朝廷は政令を発布して、漢語を統一することに貢献した。

 孫中山先生が民國を誕生させた後、著名な言語学者“趙元任先生”が創造した注音字母は1913年(民國2年)に讀音の統一を為した。北洋政府教育部が1918年に正式に公布し民国政府は1930年に正式名称を“注音符號”とし、全国学校《国文》教科書の漢字全部に注音符号を付けた。

 人民共和国成立後、積極的に現代漢語(簡称“普通話”)の漢字讀音統一を以下の如く加速させた。《人民日報》1955年12月26日《爲促漢字改革、推廣普通話、実現漢字規範化而努力》の社論を発表した。国務院は1956年2月6日全国各地に向けて、《関于推廣普通話的指示》を表明した。そして明確な指示として:普通話とは、北京音を標準音と為し、北京話を基礎方言と為す。以て現代白話文の著作は普通話を規範とすること。

 また別の《指示》として、漢語は我が国の主要の言語、又世界で使用人数最多の言語で、且つ又、世界で最も発展した言語の一つである。然し、歴史的な過程によって、漢語の発展は未だ完全に統一はされていない。許多の方言が妨害となり、不同の地区の人達の交流談話、社会主義建設事業中の許多の不便がある。言語中の些かの不統一の現象は、会話の中にあり、又書面上にも存在する。そして、書面語言や、出版物に至まで、語法上の混乱は、重大である。我が国の政治、経済、文化と国防の進歩発展の利益を為す爲には、必ずこの現象を取り除くことをしなければならない。文化教育関係と、人民生活の各方面にこの普通話を推し廣めることは、漢語の完全統一促進の主要な方法である。

 1958年2月11日第一回全国人第五次会議では、北京語音を標準音と為す事とされた。《漢語?音方案》(以拉丁字母代替注音符号)。

 この様な努力の結果、現在では現代漢語が通用する中華大陸は、空前の普及と空前の統一に到達した。そして現代漢語は既に、学校教育、新聞、書籍、雑誌、テレビ、ラジオ、公文書の往来など、みな現代漢語を用いている。更に外国の許多の学校も、又現代漢語を教育している。依って、普通話は我が国各族人民の共同の言語(台湾称国語)と成った。

 第28回国聯大会会議は1973年12月18日に行われ、我が国現代漢語は、英語・フランス語・ロシア語・スペイン語と並んで、國聯大会と、安全保証理事会の公式語文の一つと成った。そして、世界の許多の国家で現代漢語は廣汎に用いられている。

 《佩文詩韵》は清朝《佩文韵府》の簡編本で、これは清朝官吏登用試験のテスト用の韵書である。これ以前随編《切韵》では、四部に分けられ、各々平、上、去、入とされ、共に206部である。《切韵》は唐代に改名されて《集韵》として刊行され、約206部と成った。その後、金代の王文郁が西暦1229年に編纂した《新刊平水禮部韵略》がある。これは、206部を再編して106部と為した。南宋平水の人、劉淵が1252年編輯した、《壬子新刊禮部韵略》は107部である。世人は将に“王・劉”二人が編纂した韵書を簡称“平水韻”とした。《佩文詩韵》は《壬子新刊禮部韵略》を沿用して106韵とした。

 漢語書面語発展を四時期に分けると、先ず西暦303年迄が第一期として古漢語。304-1263年が第二期として、中古漢語。1264-1918年が第三期、近古漢語(也称近代漢語)。1919-年から第四期、現代漢語である。漢語は二千有余年の四時期を経て大発展を遂げ、古漢語の四声(平、上、去、入)、は既に現代漢語の四声(陰平、陽平、上聲、去聲)と成った。現在では古語の入聲字は既に消失した(些かの文字は、現代漢語の陰平、陽平、上聲、去聲に并入された)。

 《佩文詩韵》は平水韵の再版である。そして平水韻は随、唐の韵書編を根拠としているから、実際のところ《佩文詩韵》は、中古漢語である。だから、現代漢語と《佩文詩韵》を比べて読むと、二つの相違点が現れる。

 1−《佩文詩韵》中の許多の仄聲字は、既に現代漢語の平聲字に成っている。例えば以下の如し
攝・疾・橘・菊・局・識・棘・撃・即・急・級・輯・緝・集・吉・及・激・籍・藉・以下省略します。

2−《佩文詩韵》の中の幾つもの同韵とされる文字が、現代漢語では同韵ではない文字があります。例えば“四支”の中の、吹・皮 や“五微”の中の、機・“八齋”の中の、奎 “十三元”の中の、坤など枚挙に遑がありません。

原載1995年8月19日《中國楹聯報》

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