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蔵頭格の定義には三っ有る。
このほかに、名称は同じだが、趣旨を異にする詩法がある。依って同じ蔵頭格の名称でkou-07A15に掲載してあります。
1−
八句詩の場合に、首聯頷聯頸聯の六句が総て題意を謂わずに景色と情感だけを述べて、結聯に成って初めて題意を説く作品を謂う。
2−
総ての句の冒頭字と末尾の字が同じである。即ち同じ字を頭と尾で二度使う。
3−
謂いたいことを、詩句の冒頭の字に使う作品。
蔵頭格の定義は以上の三っが謂われているが、一般に活用される作品は、第三項の「謂いたいことを、詩句の冒頭の字に使う作品」である。以下はこの方法について述べる。
蔵頭格は一名鶴頭格などとも言われる。絶句などの四句詩の、各句の頭字に折り込みをする詩形で、主に応酬用に多く用いられる。
詩詞の応酬をする場合、相手への敬意を込めて、相手の名前を句の頭字に埋め込んで贈るのである。
日本の詩壇では、蔵頭格は作品の威厳を損ねるとしてあまり評価されない傾向にあるが、漢民族の社会において、詩詞は「挨拶」として重要な要素で有る。
筆者は先ず詩集などで気に入った作品に出会うと、その作品と作者に敬意を込めて「蔵頭格」を詩集の編集者に贈るのである。編集者はその作品が掲載に足りる基準に達していれば詩集に掲載する。
掲載された作品を読んだ当該作者は、心に介するところが有れば、小生の下へ応酬の蔵頭格を贈ってくる。これで初めてお互いの交流が始まるのである。
日本国内においても蔵頭格は大いに利用価値がある。如何に威厳に満ちた作品を贈られても、難しくて理解に苦しんでは目的を達せられない。もちろん内容は充実させる必要があるが、自分の名前が確認できれば、それだけで、相手が喜んでくれるのである。年賀や祝賀には大いに用いて有効な詩法である。
交遊の興趣として、自作の作品を贈れば喜ばれる。書家なら書作で有ろうし、歌人なら短歌の作品だろう。でも喜ばれると言っても、贈られた相手に関係のない作品で有れば、単に貰ったと言う嬉しさだけである。書作であれ短歌で有れ、贈られた人のオーダー作品なら嬉しさも格段である。亦興趣は時宜が大切である。日時が過ぎてからでは嬉しさも半減する。
即興で而もオーダーメイドで有る必要がある。
漢詩には鶴頭格と言う、形式がある。折り込み漢詩と言うところであろう。これは作品の中に一目瞭然の形で、相手の名前が織り込まれるのだから、オーダーメイドとして最も効果がある。もう一つ、即興で直ぐに出来ると言うことである。
これから制作のポイントを述べてみよう。
@時宜に即していること。
A即座に出来ること。
B相手を喜ばせること。
C趣旨が貫徹していること。
D創りやすい形式で有ること。
主要な要件は以上の四点で有るので、以後解説をしてみよう。
@時宜に即していること。
経済会議後の懇談会で、経済関係の作品を貰っても、疲れた頭を又疲れさす丈で余り喜ばれない。そして重い話題は立場の相違解釈の相違があるので、余程注意しないと有らぬ誤解を招くので即興には向かない。却って軽い話題がよい。季節に関する話題。これなら一番に創りやすく解釈の相違を招くこともない。
A即座に出来ること。
一番に創りやすいのは、季節に関わり有る眼前の景を写す事である。冬なら看梅、春なら観桜、初夏なら緑陰試筆、この様に当たり障りのない季節に即した題とするのが一番創りやすい。
B相手を喜ばせること。
折り込み漢詩と言っても、単に氏名が織り込まれている丈で、中身は全然自分に関係のない事柄では、それ程の興趣は湧かない。そこで相手様のことを趣旨とする。これなら自分を詠ってくれているのだから関心は一層深くなる。でも貶されては面白くない。お世辞と解っていても褒めてくれると嬉しい。
C趣旨が貫徹していること。
一句一句がバラバラで何を言っているのか解らなくては困る。句の構成に注意を要す。趣旨貫徹が必要である。
D創りやすい形式で有ること。
漢詩は韵だ!平仄だ!とやたらに喧しい。これで即興はとても無理なようだが、易しい形式もある。古詩である。これなら韵は平字でも仄字でも良いし、平仄は問はないが、ただ句末の三文字は平三連、仄三連に成らない様にすることが必要である。
もう一つ、折り込みでは、句頭の熟語が趣旨に添うとは限らない。五言の場合、残りの三文字でこれを修正することが容易かというと、即興という条件には聊か無理がある。この場合七言なら次の二文字で方向転換させ、容易に趣旨に添う句とする事か出来る。
次に実作に移ろう。
いま私の部屋の窓からは、梅の花が見える。早咲きの梅である。題は「看梅」としよう。さあ誰に贈ろうか?昨日昔の詩吟仲間と一杯飲んだ。彼は詩吟も上手だが、鎌倉彫に凝っている。詩吟より鎌倉彫の方に視点を措いた方が彼は喜ぶ。「井上良恭君」である。
先ず井上良恭と紙の頭に書く。
井梧無葉梅有花
上京幾年是君家
最初の二句は、季節に関係有りそうな当たり障りのない言葉で埋める。井戸の傍の梧桐には葉がなくとも梅には花が咲いている。桐の木が有って、梅の木が有るのだから、結構大きな家だ。上京して何年経つか知らないが、これが君の家なんだね。
話題を変えれば
井井重職託吟箋
上京幾年百花然
規則正しく重職を努めている事を詩にするなら、上京して幾年かの功績は百花燃えるが如きだ。
良輩相集彫寶鏤
良妻常用君彫几
此処で彫刻をしている事を持ち出そう。友達が集まって彫刻をしている。
奥さんは君の創った机を常用している。
恭容一枝早鶯天
恭黙梅花暗香傳
あれこれしている中に八句も出来てしまった。一見バラバラな様だが、継ぎ合わせると、どうやら形を整える。
井梧無葉梅有花
上京幾年是君家
井井重職託吟箋
上京幾年百花然
良輩相集彫寶鏤
良妻常用君彫几
恭容一枝早梅妍
恭黙梅花暗香傳
井梧無葉梅有花,上京幾年是君家。
良輩相集彫寶鏤,恭容一枝早鶯天。
井井重職託吟箋,上京幾年百花然。
良妻常用君彫几,恭黙梅花暗香傳。
例として二首組み合わせてみたが、組み合わせを換え、少し文字を換えればもっと沢山出来る。
今度は女性にしよう。男性の場合は、人生の重みを評価しなければ成らないが、女性の場合は現在の有り様を評価すればよい。例として「山田佳美さん」を登場させよう。
山
田
佳
美
と配置します。
先ずその時の季節に合わせた題を付けます。これからなら桜の花見でしょう。
題を「桜花」としましょう。
そうしましたら最初の2句は、適当に桜の花のことを詠います。平仄は全く問いません。最後の文字だけ韻を踏みます。
山寺三月雨晴時,
田家菜花不背期。
此の二句は適当に書けばよいのです。次の句は、相手の特徴を一つ入れて書きます。彼女がカラオケが巧いなら「佳声」とします。字がうまいなら「佳筆」「佳墨」などと書き出します。
佳声通神千秋業,これで相手を評価します。次は又花で書くと、程々に纏まります。
美瞳微香看桜詩。此処では少し持ち上げました。
出来た作品を下記の様にしたためて贈ると良いでしょう。雅印を持ち歩くことをお勧めします。
桜花 古体
山寺三月雨晴時,
田家菜花不背期。
佳声通神千秋業,
美瞳微香看桜詩。
平成 年 月 日
甲野乙郎印
対聯漢俳漢歌自由詩散曲元曲漢詩笠翁対韻羊角対填詞詩余曄歌坤歌偲歌瀛歌三連五七律はこの講座にあります