漢詩詞論攷 領字 中山逍雀漢詩詞填詞詩余楹聯創作講座 TopPageこちらからもお探し下さい

領字格

注;領字とは、下記に記されている一つ一つの句法を言うが、領字格とは、定型の規約の中で、領字の使用が決められている句法を言う。作品の中に領字は沢山あるが、領字の使用を規定された定型はそれ程に多くはない。本講では、領字使用の定型の分類はしていないが、本講記載の定型には、その都度領字格を表示している。現在通用の填詞概ね100定型の中で、領字格の定型は、本講に記載した定型で殆どである。

 詞の句法と詩の句法の違いは、詩句の文字数は5字(2+3)或いは7字(4+3)である。詞句の文字数もその殆どは5字(2+3とは限らない)或いは7字(4+3とは限らない)であるが、其れ以外の文字数の句もあり、雑多である。

 詞も詩も對仗は殆ど同じであるが、平仄相反ばかりとは限らない。平仄相同でも文法構成が同じなら、對仗となり得る。

 詩には管到句法があるが、詞には領字格がある。

 管到句法

  川中島 ョ山陽
鞭聲粛粛夜過河,暁見千兵擁大牙。
遺恨十年磨一剣,流星光底逸長蛇。

主語 述語 客語
○○ 遺恨 十年磨一剣,流星光底逸長蛇。

 「遺恨」は「十年磨一剣,流星光底逸長蛇。」まで関わりを持っている。此を管到の句法という。
言い換えれば、「○○」は「十年磨一剣,流星光底逸長蛇」が「遺恨」である!と言う意味である。

 詞の領字格は、その殆どは1字であるが、その構成趣旨は上例と同じである。

  望海潮 金 折元禮(従軍舟中作)
  地雄河岳,彊分韓晋,潼関高圧秦頭。
山倚断霞,江呑絶壁,野烟索帯蒼洲。
虎旆擁貔貅。陣雲截岸,霜気横秋。□;領字
千雉厳城,五更残角,月如鈎。
  西風暁入貂裘。儒冠誤我,却羨兜牟。□;領字
六都少年,三関老将,賀蘭烽火新収。
天外岳蓮楼。断雲横暁,誰識歸舟?□;領字
剰著黄金換酒,鶏鼓酔涼州。

述語 客語
陣雲截岸,霜気横秋。
儒冠誤我,却羨兜牟。
断雲横暁,誰識歸舟?

 

望海潮 柳永

述語 客語
濤巻霜雪,天塹無涯。
三秋桂子,十里荷花。
酔聴簫鼓,吟賞烟霞。

 

  沁園春 蘇軾(赴蜜州,早行,馬上寄子由)
  孤館灯青,野店鳴号,旅枕夢残。
浙月華収練,晨霜耿耿;雲山檎錦,朝露団団。  五七對仗
世路無窮,労生有限,此区区長鮮歓。      八九對仗  領字
微吟罷,凭征鞍無語,往時千端。
  当時共客長安,二陸初來倶少年。      領字
有筆頭千字,胸中萬巻;致君堯舜,此事何難! 三四對仗
用舎由時,行藏在我,袖手何妨閑處看。     七八對仗
身長健,但優游卒歳,且斗樽前。

述語 客語
此区区長鮮歓。
二陸初來倶少年。

 

  八聲甘州 宋柳永
  瀟瀟暮雨洌江天,一番洗清秋。
漸霜風凄緊,関河冷落,残照当楼。
是處紅衰翠滅,苒苒物華休。
惟有長江水,無語東流。
  不忍登高臨遠,望故郷渺□,歸思難収。
年来踪迹,何事苦淹留!
想佳人、妝楼△望,誤幾回、天際識歸舟。
争知我、倚欄干處,正恁凝愁!

述語 客語
瀟瀟暮雨洌江天,一番洗清秋。
年来踪迹,何事苦淹留!

 

  桂枝香 疏簾淡月 王安石
  登臨送目。正故国晩秋,天気初霽。
千里澄江似練,翆峰如簇。
歸帆去棹残陽里,西風、酒旗斜矗。
彩舟雲淡,星河鷺起,画図難足。
  往昔豪華競遂,嘆門外樓頭,悲恨相続。
千古凭高對此,漫嗟栄辱。
六朝舊事随流水,寒烟、衰草凝緑。
至今商女,時時猶唱,后庭遺曲。

述語 客語
西風、酒旗斜矗。
往昔豪華競遂,嘆門外樓頭,悲恨相続。
寒烟、衰草凝緑。

 

鶯啼序 春晩感懐 呉文英

述語 客語
羈情,游蕩随風,化爲軽絮。
嬌塵軟霧。
当時,短楫桃根渡。
鬢侵半苧。
相思、弾入哀箏柱。

 

主語 述語

客語は豆点から韵点まで  

豆点 句点 韵点
○○ 領字 ○○ ○○ ○○

以上の領字格に関わる記事は、総て中国詩友の指導によるものである。

 詞の句法は詩の句法と殆ど同じである。ただ幾つかの定型には「領字格」と言う、詩にはない句法がある。領字は述語で、領字の後に並ぶ語彙は、豆点句点を含めて、韵点まで、総て客語と成る。詞作品鑑賞の場合、領字格を知らぬと、一般構文と見分けが付かず、思わぬ間違いを犯すこととなるので、注意を要す。

 なお押韵律體符号(俗称詞譜)には、平仄配列、對仗指定、句の文字数配置と並んで、領字格の指定も記載されている。中国国内発刊の詞譜書には、領字格に関わる添え書きがあるので、それに従って作詞を為し、或いは作品鑑賞をしないと、思わぬ間違いを犯すことになる。

 

曄歌坤歌偲歌瀛歌三連五七律自由詩笠翁対韻羊角対漢歌漢俳填詞詩余元曲散曲楹聯はこの講座にあります