漢詩詞叙事互文 中山逍雀漢詩詞填詞詩余楹聯創作講座こちらからもお探し下さい

互文TopPage
gobun

 対句の一形式として、或いは叙事法の一形式として互文がある、詩は対偶や平仄等の条件を考慮しなければならないので、一つの纏まった観念を二句に分散し書かれる事がある。
 互文は双関と同様に字面だけでは理解できないので、前後の分脈を探って真意を突き止めなければならない。

 例えば漢の楽府民歌「戦城南」に 戦城南 死郭北 と言う二句が有り、これは整った対句を為しているが、此の意味は戦争は南で発生し、兵士は北で死ぬと謂うのではない。

 これは 戦城南郭北就是死城南郭北 の省略形であって、戦争は南でも北でも発生し、兵士は北でも南でも戦死すると云う事で、二度の言い回しを避けて事柄を分散している。

註: 「而」の文字は詩句には余り用いた例が有りません。勿論「就是」は口語体で説明の為に用いた文字です。

 次に白居易の「琵琶行」 主人下馬客在船,の句が有るが、此の句の表現を額面通りに受け取れば、「主人は馬より下りて客を見送り、客は舟に在って別れ出船の人となる」と言う意味になるが、然しそう取ったのでは誤りとなる。

 言い換えれば 主人與客下馬就是客與主人在舟,主人も客も馬より下り、客も主人も舟に在り の省略形である。
 その事は其れに続く「擧酒欲飲無管弦。酔不成歓惨将別,別時茫茫江侵月。忽聞水上琵琶聲,主人忘歸客不発。」の五句を読めば明瞭である。
 此の五句はハッキリと主人と客がどちらも客船に乗り、差し向かいで酒を注ぎ、名残惜しんでいる描写である。其れを単純に「主人は馬より下り、客は舟に乗っている」と解釈したのでは正確な理解には成って居ない。

 王昌齢の「出塞」の詩に 秦時明月漢時関 の句がある。字面通りに読めば、何故に明月は秦の時に限り、関所は漢の時に限らねばならないのかと疑問が湧く。言い換えれば「秦時漢時明月 漢時秦時関所」これは秦漢の明月 秦漢の関所の意味である。

 曹操の「歩出夏門行 観蒼海」に「日月之行 若出其中 星漢燦爛 若出其裏」 此の句は四句の中で互いに形成され、光輝き運行して止まないのは、「日月」と「星漢」の両方に懸かる言葉である。
 星漢日月が明るく大海に浮遊し、やがて大海に包み込まれ、又再び大海より生まれ出ずる、雄大な景観を描写している。

 これらの事柄を分かりやすく図示すれば
城南      戦    戦城南死郭北 戦城南
    ×
郭北      死


         
主人      下馬    主人下馬客在船 琵琶行 白居易
    ×
客人      在船



秦時      明月    秦時明月漢時関 出塞 王昌齢
    ×
漢時      関所

 

互文成立の要件
1-主語が複数有ること。
2-交互に読み替えても、実現可能であること。
3-共通事項が、相互に成り立つこと。

 

互文の簡単な作り方

 一句の中に収まる場合
 ○○○○互文+○○○共通事項

註:上記は七言句の場合であるが、五言句では文字数の関係で、以下の如く構成は無理である。
  ○○互文+○○○共通事
  ○○共通事項+○○○互文

七言句の場合
@ ○○○○互文+○○○共通事項
A ○○○○共通事項+○○○互文

@ 弾琴酌酒想先賢・・・・主語が単数だから互文ではない。
  夫琴妾酒想先賢・・・・主語が複数で、交互に読み替えても実現可能で、共通事項が相互に成り立つから互文である。 

   燕飛梅熟識季節・・・・主語が複数だが、交互に読み替えると実現不可能だから互文ではない。
   燕飛雀育識季節・・・・主語が複数で、交互に読み替えても実現可能で、共通事項が相互に成り立つから互文である。

A 四文字で共通事項の句は作れるが、三文字で主語を複数にして互文を作ることは不可能で有る。依って ○○○○共通事項+○○○互文 の形式は成り立たない。

 

 二句に跨る場合
@ 出句互文+落句共通事項
A 出句共通事項+落句互文

@ 幽斎酌酒○雨懐人,陋巷寒廚白髪身。・・・・主語が単数だから互文ではない。

   荊妻酌酒凡夫○人,陋巷寒廚白髪身。・・・・主語が複数で、交互に読み替えても実現可能で、共通事項が相互に成り立つから互文である。

A 恋々思君錦繍裾,芭蕉雨気竹軒○書。・・・・主語が複数だが、交互に読み替えると実現不可能だから互文ではない。

   恋々思郷錦繍裾,君傾酒盞我讀○書。・・・・主語が複数で、交互に読み替えても実現可能だが、共通事項が成り立たないから互文でない。

   恋々思郷草茅居,君傾酒盞我讀○書。・・・・主語が複数で、交互に読み替えても実現可能で、共通事項が相互に成り立つから互文である。

註:○印は、○○○○+○○○○ の構成を ○○○○+○○○ としたので、其の省略された文字である。前後の関係より適宜読み替えると良い。

 

 以下の項目は、中国の文献の互文の解説には取り上げられていない詩法なので、別に項を設けて解説してあります。

参考
以下の例題は日本のテキストで、互文として紹介された詩句である。

問花尋柳
問     花    問花尋柳一風流,客途春興 高橋藍川
   ×
尋     柳
       花も柳も問い、尋ねもすると謂う意味である。

聴詩問画
聴    詩    聴詩問画恍移時,訪玉邨翁 太刀掛呂山
   ×
問    画
       詩も画も聴き、問いもすると謂う意味である。

考察之一
 この例題は、果たして互文と言えるのか疑問である。其れは、互文という句法に依らなくとも、その趣旨を読み取れるからである。例えば「問花尋柳一風流」の句は、花も問うし柳も尋ねることは、文字面通り読んでも読み取れる。同じく「聴詩問画恍移時」の句は、詩も聴くし画も問うことは、文字面通り読んでも読み取れる。

考察之二
 中国国内文献と例示資料には、明かな相違点がある。即ち中國国内文献類例の示す詩詞作品は、主語が複数存在すると言うことである。それに引き替え、例示資料は、主語が一箇しか存在しないと言うことである。主語が単数の場合は、交互に読替をする必要がないし、交互に読替をしても内容が変わらないのだから、互文ではないと思われる。

互文体自由詩散曲元曲楹聯漢詩笠翁対韻羊角対漢歌漢俳填詞詩余曄歌坤歌偲歌瀛歌三連五七律はこの講座にあります