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竟陵体

　公安体が盛んであった頃、竟陵（湖北省天門県）の鍾惺・譚元春と言う二人の詩人が居た。袁氏兄弟の詩論に反対したわけではないが、その詩風には反感を持っていた。そこで幽玄深趣で孤高を表現する風格を提唱して、袁氏の悪影響を排斥しようとした。彼らは中唐の孟郊・賈島派に属し、風格は保守的で暗く冷ややかであった。

　二人は、「古詩帰」と「唐詩帰」と言う二冊の本を編集して好評を得た。二人は竟陵の人なので、詩論家は彼らの詩体を竟陵体と呼んでいる。ただし竟陵体は、大変難しく技巧に走ったので、一時的に人気を博したがも長くは続かなかった。

　14世紀、明初には劉基、宋濂、方孝孺らが活躍した。永楽年間（1403年-1424年）には、上級官僚の手による台閣体と呼ばれる封建道徳を宣揚する文風が起こった。その代表的な作家には楊士奇・楊栄・楊溥のいわゆる「三楊」がいる。台閣体はその後、宮廷御用的な傾向を帯び、無気力で凡庸な作風に陥った。

　成化期には李東陽を代表とする茶陵派が登場し、台閣体に代わる新しい文学の模索が始まり、復古主義的な傾向を打ち出した。弘治（1488年-1505年）・正徳（1506年- 1521年)年間には、李東陽が科挙によって抜擢した李夢陽・何景明ら前七子が活躍し、低迷沈滞していた文壇に活力を与えた。彼らは「文は必ず秦漢、詩は必ず盛唐」を標榜して擬古主義を提唱した。理想とする古人の詩文の「格調」を模擬して創作することを主張し、「格調説」と称される文学理論を展開した。この傾向は、嘉靖（1522年-1566年）・隆慶（1567年-1572年）年間に活躍した李攀竜・王世貞ら後七子によって継承発展された。彼ら七子派が模擬創作した擬古文を、唐宋の古文と区別する場合、古文辞という。日本では江戸時代に李攀竜に傾倒した荻生徂徠が古文辞の普及に努め、古文辞学を提唱している。

　一方、七子派の擬古主義に反対する流派も現れた。王慎中・唐順之・帰有光・茅坤らは宋儒の「文道合一」の主張に共感し、「文必秦漢、詩必盛唐」の主張を斥けた。唐宋八大家を顕彰し、唐宋派と呼ばれる。万暦年間には李贄（李卓吾）が現れて、復古模擬の文学に反対し、創作は古典的な規範に束縛されず、自らの心の発抒にもとづくべきだと主張した。李贄に師事した袁宗道・袁宏道・袁中道三兄弟（三袁という）ら公安派は文学にはその時代に特徴的なものであるべきとして復古主義を斥け、自己の胸臆にある性霊の発抒こそが真詩であるとした。このような革新的な主張も当時の擬古主義の大勢を崩すにはいたらなかったが、鍾惺・譚元春ら竟陵派の自由奔放な文学批評の活動が人々に受け入れられ、明朝末期に清新な文風が生まれることになった。

　明代には白話小説が発展し、「三言」と「両拍」と呼ばれる短編小説集が編まれ、広範な題材を扱った。また明の時代には長編小説が現れる。有名なものに『水滸伝』『三国志演義』『西遊記 』『金瓶梅 』があり、まとめて四大奇書と呼ばれる。

　銭謙益は（1582〜1664年）字は受之、号は牧齋。江蘇省常熟県の人。。1644年、南京陥落に際して、真っ先に清軍に降表を奉じ、晩節を汚した『弐臣伝』中の人物。明清両朝に仕えた変節漢の列伝であり、問題の行為が多く、後世の評価は頗る冷たい。銭謙益死後百年、明王朝の反節は、乾隆帝によって採り上げられ(1769年)彼の文学の抹殺が企てられる。

　『弐臣伝巻六』上論には、「もと才有りて行い無き人」又、「大節に欠くる有りて、まことに人類に歯するに足らず」と切り捨てる。然し、彼の博学は佛典の研究に及び、詩は杜甫、韓愈、蘇軾、陸遊い学び趣を広くしたと評される。沈徳潜の「国朝詩別栽集」には銭謙益の詩は無い。

　　徐州雑題
彭城十日水奔流，太守行呼吏卒愁。
河復詩成無一事，羽衣吹笛坐黄楼。

　　惆悵詞
清切呉音和梵音，残経晩院影沈沈。
含嬌欲共荷花語，寝寝誰知不染心。

　　惆悵詞
秋風偏向夜窓清，一片銀河畫不成。
俗殺陳王神女賦，月明吹作歩丘声。

　　鳳蝶詞
一庭花霧昼冥濛，鳳蝶双飛逐好風。
依約黄簾還繍幕，可曽飛過宋家東。

　　鳳蝶詞
倚尽疏窓十二欄，愁腸不似帯圍寛。
春光滞殺間庭院，鳳蝶双飛也作團。

　　柳絮詞
唱断蘇臺楊柳枝，春愁如線又如絲。
古歌旧恨君休記，聴取新翻柳絮辞。

　　柳絮詞
送郎莫唱楊柳枝，生憎一簇更千絲。
柳枝只鮮綰離別，柳絮随郎無尽期。

　　柳絮詞
乱点新粧払畫眉，玉楼春尽倚欄時。
随風乍可沾泥死，莫作浮萍逐水移。

　　無花
客裏無花獨倚楼，討春無計恨悠悠。
無花亦有便宜處，省却花飛一段愁。

　　反東坡洗児詩
坡公養子怕聡明，我為痴獣誤一生。
還願生児猾且巧，鑽天驀地到公卿。

　　宋比玉将行留別和詩
三杯自可觀觴政，一日那能廃酒軍。
莫道酔卿無史牒，酒家南董定推君。

　　宋比玉将行留別和詩
手自鳴琴客善歌，淋漓溌墨酒邊多。
瓊花珠玉如相待，便似当年老鉄過。

　　柳枝辞
離別経春又隔年，揺青漾碧有誰憐。
春來羞共東風語，背却桃花獨自眠。

　　渭南梁生為余写真題二絶句
畫得漁翁貌不肥，春愁鶴髪正依稀。
君家渭水南頭住，為我平添旧釣磯。

　　雑憶詩
海燕西飛不転頭，河中流水却東流。
莫愁湖上春愁女，総為愁多字莫愁。

　　雑憶詩
夢裏相遇覚又分，夢闌無那涙紛紛。
如今夜短何曽睡，贏得通宵不夢君。

　　陌上花樂府三首
陌上花開正掩扉，茸城草緑雉媒肥。
狂夫不合堂堂去，小婦翻歌緩緩帰。

　　禊後五日浴湯池留題
山比驪山湯比香，承恩並浴少鴛鴦。
阿満果是風流主，妃子應居第一湯。

　　禊後五日浴湯池留題
沐浴頻看称意身，刈蘭贈薬想芳春。
憑将一掬香泉水，噴向茸城浣玉人。

　　代恵香答
凰鳥高飛與鳳期，差池一燕敢追随。
桃花自趁東流水，管領春風任柳枝。

　　燈下看内人挿花戯題
水仙秋菊並幽姿，挿向磁瓶三両枝。
低亜小窓燈影畔，玉人病起薄寒時。

　　燈下看内人挿花戯題
幾朶寒花意自�閨C一枝叢雑已爛斑。
憑君欲訪瓶花譜，只在疎燈素壁間。

　　丙申春就医秦淮寓丁家水閣浹両月臨行作
苑外楊花待暮湖，隔渓桃葉限紅橋。
夕陽凝望春如水，丁字簾前是六朝。

　　題鄒臣乕画扇
大痴吹笛度秦関，鄒子仙遊又不還。
破墨烟巒餘黯淡，夕陽紛本在虞山。

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